最近は、パソコンでいろいろな情報が入手できますし、ショッピングをすることが当たり前のようになりました。
さらにスマートフォンでも、ショッピングができるだけではなく、ナビシステムとして使うことができるなど、本当に便利です。私も、もはやスマートフォンが手放せなくなってしまいました。
スマートフォンのタッチパネルでの直観的な操作などは、操作性に感動させられますが、いったいこの端末の中で何がどのように動いているのかは、システムに理解のない私には、まったく想像もできません。
このような端末が世の中に登場したのは、わずか数年前だと思いますから、この分野はそれだけ短期間に急成長を遂げたのだと思います。
ソフトウェア開発を巡る法整備
一方で、法律や契約書は、急成長を遂げた分野についてどうしても弱い部分があります。法律が作られるのは、社会で様々な問題が生じた後になりますし、契約書も具体的な紛争を想定して、その予防のために条項を策定しますので、契約書の内容では不完全なこともあります。
参考になる契約雛形
もちろん、このような契約に対しても、すでに多数の契約書の雛形、注意点に関する解説はなされています。特に、
- JISA(一般社団法人情報サービス産業協会)のホームページに掲載されている「ソフトウェア開発委託基本モデル契約」
- 経済産業省のホームページに掲載されている「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会」がリリースしている「情報システム・モデル取引・契約書」
などは、無料で利用ができますし、信頼ができる内容ですので、参考にされることをお勧めします。
システム開発契約に関する契約書の雛形を利用する際の注意点
前項で紹介した契約書の解説、雛形は立派なものであり、簡単に入手できます。しかしながら、その意味を理解し、活用することは意外と難しいものです。
契約書内容のボリュームダウン
まず、これらの雛形を活用しようとすると、そのボリュームが普段見慣れている契約書よりも相当に分厚いことが分かります。そこで、適度な分量にしたくなるのですが、どこを削っていいのか、なかなか悩ましいところです。
基本的には、この契約書で何を明らかにしたいか、という点を十分に検討し、その部分を残すことに注目し、ボリュームダウンをすべきです。
例えば、
- 発注者側としては、開発期間が重要なのであれば、開発期間に関する定め、それに対する遅延のペナルティは明確にしておくべき
- 受注側のシステム開発業者としては、期間をあまりに重視されても、開発過程における予期せぬ事情の発生により開発が遅れることもあると思います。特に、発注者の事情により、開発期間が変更となった場合にまでペナルティを課せられるのは厳しすぎます。そこで、開発工程を策定する前提条件を明記することを求めることも必要
このように、雛形をそのまま使用すると不便なこともありますし、チェックが不十分であれば、気が付かないうちに不利な条項が無条件で組み込まれている可能性があります。
納入日と引渡の違い
ソフトウェア開発委託契約では、納入(納品)・引渡、あるいは納入日・引渡日といった用語が使い分けられていることが多々あります。
例えば、自動車を購入する場合には納品と引渡は同じ意味で使用されていると思いますし、日常的な言葉の意味では区別することは無いと思います。
しかし、ソフトウェア開発委託契約では、納入、引渡は違う意味を持ちます。
ソフトウェア開発委託契約の業務フロー
- 委託契約
- プログラム開発作業
- プログラムの納入日(納品)
- 委託者によるプログラムのテスト(検収)
・プログラムの修正
・プログラムの再納入(再納品) - プログラムのテスト終了(引渡)
多くの契約書では、3のタイミングで「納入」、5のタイミングで「引渡」とされることになります。この用語法によれば、4の時点は「納入はされているけど、引渡はなされていない」ということになります。
納入と引渡の法的効果の違い
このように契約書上、納入と引渡は区別がなされていますが、それには意味(法的効果の差)があります。
背景として、ソフトウェア開発委託契約の特徴として、4が不可欠であることが指摘できます。これは、オリジナルのプログラムであれば、
- 開発者が見落としていたミスが見つかる
- 開発者が予期せぬ条件設定等により、多少の不具合が発生する可能性がある
- 開発者側のテスト端末と発注者側のテスト端末の個性の差が出る可能性がある
些細なものも含めると、このような不具合が見つかる可能性は相当に高いと考えます。そこで、このような不具合をチェックする期間が不可欠ということになります(このチェックを検収といいます)。
そして、検収が完了した商品が完成品として引渡がなされたということになり、多くの契約書では、報酬金の支払い条件とされているはずですし、以後の修補は「瑕疵担保責任」の問題となります。また、所有権等の権利の移転の時期も、納入ではなく引渡の時点とされる例が多いと思われます。
逆に、検収をクリアできない場合には完成品とはならず、報酬は出来高となる可能性もありますし、それどころか、完成できなかったとして開発するという義務の債務不履行の問題が生じる可能性があります。
一方で、納品(検収前)の時点では、期限を守ることができなければ、債務不履行、解約等の問題が生じますが、無事に納品をしたとしても、検収作業まで終わらなければ、報酬の発生という効果は生じないことになります。
契約書の例
以上の記載について、契約書では、次のような記載が考えられます。なお、極めて簡易なものですし、実際の契約書にはもう少し個別具体的な記載が必要となりますので、ご注意ください。
1条(納入) 受託者は、「仕様書」に基づき成果物を作成し、「納期」までに納入する。納入に際しては、所定の成果物とともに納品書を提出する。
2条(検収) 委託者は、前条の納入がなされた場合には、同日から○か月を検収期間とし、その間に検収を行うこととする。
2 検収にて成果物に瑕疵、不具合が確認された場合には、受託者はその不具合に対応し、再度、成果物を納入することとし、再度の納入日を協議の上定め、検収期間は再度の納入から○か月とする。
3条(引渡) 委託者から検収確認完了の通知がなされた場合はその日、もしくは、検収期間内に委託者から何らの通知がなされなかった場合には検収期間満了日をもって、成果物の引渡がなされたものとする。
4条(瑕疵担保) 引渡後・・・
5条(報酬金の支払い)委託者は、受託者に対し、3条の引渡から○日以内に、個別契約書に定められた報酬金を支払う。
6条(権利の移転)引渡をもって、所有権は委託者に移転する。著作権・・・
本コラムはリスク法務実務研究会にて当事務所の弁護士小川剛が担当している内容を、一部改訂して掲載しております。
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