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判決と和解
判決
民事裁判における証人尋問が終わると、いよいよ判決となります。
判決は一定の証拠に基づいて判断がなされますので、弁護士は、おおよその判決の予測をします。予測といっても経験に基づくものであり、当方が有利な部分も不利な部分も考え、総合的にどのような判決となるか、考えることになります。
しかしながら、この予測、想定が狂うことがあります。
思わぬ大勝利もあれば、思わぬ敗訴もあります。ここで重要なのは、判決の場合、100対0の判決となりうるということです。
弁護士にとって判決の見通しを立てる能力は不可欠なものです。予測が外れるということは、これは私の弁護士としての経験不足、腕の無さかもしれません。ただ、実際には、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所と判決が異なることもあるのであって、最初の判決が正しいとは限りません。つまり、完全に判決内容を予測することは困難となります。
和解
判決にリスクがあることで、和解という話が出てきます。
和解の例1
1000万円の請求をしている場合に、原告・被告双方に有利な証拠がある。勝訴すれば1000万円を回収できるかもしれないが、敗訴すると ゼロとなってしまう。このような場合に、例えば500万円で和解をすることが考えられます。
判決となる場合の勝訴の見通し・回収時期の見通し・自社の資金繰りの必要性などから、500万円だけでも早期回収できるほうがメリットがある、ということがありえます。
このように、黒か白か、という事件の場合には、一定のリスク回避機能、あるいは債権の早期回収機能といったことが期待できます。
和解の例2
判決では確実に勝てるが、和解をする例です。
賃貸マンションを所有しているが、入居者が賃料を支払わない。そこで契約解除をし、部屋の明渡しと未払いの賃料を請求する裁判をします。確実に勝訴判決が得られますが、勝訴判決を得ても、相手方は家賃を滞納しているような方なので、未払い賃料を回収するだけの資力があるとは思えません。
さらに、荷物を置いて出て行った場合には、明け渡しの強制執行の手続き、残された動産の処分手続きが必要となります。これらの手続きを続けるには、相応の費用と時間がかかります。また、この費用は手出ししなければなりません。
そこで、賃貸人としては、たとえ賃料が回収できないとしても、2ヶ月後であったとしても、円満に荷物を片付けて退去してもらいたいのです。このため、円満な退去をすることで和解が成立することがあります。
民事訴訟ではおそらく半数以上が和解による解決となっていると思います。和解には色々な計算が働きますが、和解によって、よりよい解決となることもありえます。こうして、判決、和解によって裁判が一段落終了することになります。
労働事件における和解
民事裁判における和解では、前述の貸金返還請求のように、黒か白か、100対0といった判決ではなく、リスク回避の意味で和解をするという選択が考えられることになる、ということがあります。
これに対し、労働事件の類型で多い解雇の無効を訴える訴訟においては、敗訴リスクとは異なる考慮がなされます。
一度解雇になった従業員は、会社に対して復職を求めて裁判を行いますが、よほどの大企業でもない限り、実際には会社と当該労働者の信頼関係は双方に無いでしょうから、職場に居場所が無いことになります。解雇時点でも信頼関係は無いのでしょうが、裁判ではお互いの悪いところを指摘することになりますので、余計に感情的になり、信頼関係は喪失されることになります。
こうなると、仮に解雇が無効であると判決を得たところで、本人の復職が事件の解決として望ましいのかというと、到底そうは思えません。そこで、一定の解決金を支払うことで、職場復帰をしないことを前提に和解が考えられることになります。
和解相場
では、和解となれば、いくら支払うことになるのでしょうか。ここでは敗訴リスクとの兼ね合い、判決となった場合との損得の問題を意識することになります。
仮に、解雇が有効となりそうであれば、会社にとってはお金を支払う理由はないのですから、会社のメリットとしては、早期解決によって紛争から解決できるという点になります。この場合には、会社は高額な和解金の支払いには応じられないことになります。
一方で、解雇が無効となる場合には、会社は一度解雇をした従業員に再度賃金を支払い続けることになるのですから、従業員も安価な和解には応じるつもりはない、という話となります。会社も敗訴して多額の金銭を支払い、かつ、会社に当該従業員が残ることは避けたいところです。
こうして、和解金の合意形成がなされるのですが、一般的には、上記の事案の状況によって給料の○ヶ月分相当額ということで合意がなされます。具体的には、3カ月から24ヶ月程度の例がほとんどです。この幅は、上記の敗訴リスクをどちらの当事者が深刻にとらえるか、という問題となります。
和解額における支払い能力と回収時期(回収のリスク)
もう一つの考慮要素として、判決を得た場合には、相手方に強制執行をしなければいけません。しかしこれは相手方の財産を探す必要がありますし、相手方に財産が無ければどうにもなりません。また、控訴されれば、それだけ回収時期は延びます。その間に会社の経営状況が悪化するかもしれません。
そこで、相手方が早期に実際に支払うのであれば、多少減額しても、確実な回収を優先することが考えられます。また、労働者にとっても早期に一定の金銭を確保できることになります。
労働事件で、相手方が会社だとはいえ、経営状況がいいとは限りません。早期に解決できるのであれば一定の減額に応じる、ということも考えられるのです。
まとめ
このように、和解は様々な要素でそれぞれの事情、思惑が交錯して条件を探ることになり、合意に達することになります。労働事件で和解をすることは、双方にメリットのある場合は多いのではないかと考えられます。
経営者にとっては、なぜ解雇をした者に支払いをしなければいけないのか、と思われることも多いでしょうが、法律の面から合理的に考えてみると、和解がベストな選択となる場合が多いのも事実だと考えます。
本コラムはリスク法務実務研究会にて当事務所の弁護士小川剛が担当している内容を、一部改訂して掲載しております。
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