遺留分請求への対策
遺留分対策は多くの方が頭を悩ませてきた問題です。特定の法定相続人に遺留分を渡したくない、というニーズは相当程度存在します。
そもそも、遺言書を書くことで遺留分の問題は発生するわけですから、税務面を意識しないのであれば、死亡する前に遺言書を作成せず、全て特定の方に贈与をすればいいのです(遺留分は遺言書が存在するからこそ生じる問題です)。ただし、この場合には、相続税よりも高額な贈与税の負担が生じることになります。
これでは回答になっていないという批判を受けるでしょうが、それほど遺留分の問題は難しい問題です。やはり各対応策にはメリット、デメリットがあるので、十分に理解をしておく必要があります。
早期に贈与を完了させる
前述のとおり、遺留分対策のために、生前に贈与を完了することも手段のひとつですが、デメリットもあります。生前の贈与時にかかる税率は相続税より高いことが一般的ですし、例えば、自営業の自社株式を早期に長男に渡した結果、被相続人と長男と反目した場合に、株式を取り戻そうと考えても、もう間に合いません。後継者選びに失敗すると、取り戻せないのです。このように自社株式を贈与するのであれば、経営権も完全に渡すなど、相応の覚悟が必要です。
遺留分対策としての信託は有効か?
最近では、民事信託の活用により遺留分対策が出来るような話を聞くこともあります。しかし、遺言を信託方式で行ったとしても、一般的に、信託だから遺留分の規定の適用が無いとは考えられていません。信託とするだけで、あたかも遺留分を回避できる、相続税を回避できるような説明がなされるケースを見てみると、生前に贈与を完了させるものであったり、法人に財産を移転する等、単純な信託ではないと思われます。もちろん、この場合にもデメリットは何かしら存在します。信託だからといって遺留分に関する紛争を回避できているとはいえないと考えていますので、信託を検討中の方は、デメリットを含め十分に仕組みを理解することが重要です。
おそらく法人の持分をなくして、支配権だけ維持するような信託となっており、私は「持分無し医療法人」と似たスキームであると理解していますが、持分という観念がなくなりますので、不測の事態に、何も手元に残せない、あるいは第三者が支払いしてしまうことも起こり得るのではないかと思われます。
遺留分の発生を前提とした手法
端的には遺留分を完全に回避する遺言書作成は難しいと考えます。とはいえ、「少しでも長男に多く遺したい、二男には遺したくない」という場合に、一般的にとられている手法をご紹介します。
養子縁組
まず、二男の遺留分割合を減らすために、法定相続人となる子を増やすことが考えられます。具体的には、養子縁組をすることになります。本件では長男の子のうち2名を被相続人の養子とします。これにより、二男の法定相続分は2分の1から4分の1に、遺留分割合は4分の1だったものが、8分の1になります。
ここまで割合を下げることが出来れば、随分と気が楽になると思います。
遺留分減殺請求の順序の指定
次に、例えば、事業継続に不可欠な財産がある場合に、遺留分減殺の順序の指定をすることが考えられます。自社株式や経営に必要な工場などを長男に相続させ、遺言書内において「遺留分減殺の順序は預貯金、有価証券の順とする」としておけば、長男は少なくとも自社株式や工場を失うことは有りませんので、紛争が生じたとしても、不動産や株式を共有とするようなことは避けられることになります。もっとも、この方法の場合には、相応に預貯金が遺されていることが重要になってきます。
価額賠償に備えた預貯金の確保
遺留分の問題は避けがたい問題であり、かつ、不動産、株式など実質的に不可分な財産しか遺されていない場合には、金銭解決(価額賠償)しかありません。これは、例えば、土地の4分の1を提供するのではなく、土地の対価相当額の4分の1を相手方に交付するものです。その際に備えて預貯金を確保しておくことが重要となります。
このように遺留分対策は期間を要するのです。