遺産分割とは
身内の方が亡くなると相続が発生します。遺言書があればいいのですが、無い場合には、遺産分割協議により、遺産を分けることになります。遺産分割手続きのフローは、大まかに以下の通りとお考え下さい。
- 相続人調査
- 財産調査
- 遺産分割協議
- 家庭裁判所による遺産分割調停
遺産が少ないから関係ない、ということはありません。預金が多くとも少なくとも、遺産分割協議が必要となりますし、被相続人の不動産を売却するにも、遺産分割協議を経て、不動産の所有者を決めた後に当該不動産を処分することになるのです。先祖代々の土地が、三代上の祖父名義であるが、亡くなって長年、不動産登記名義を変更していないという場合もあると思いますが、この登記名義の変更も遺産分割協議によって実現することになります。
なお、かつては、銀行預金の払い戻しについては、遺産分割協議を行わずに、銀行に法定相続分を求めて裁判を行えば払い戻しが行えました。しかし、最高裁判決により、現在では、遺産が預金だけであっても、遺産分割が必要となります(最高裁判決については、こちらもご参照ください)。
相続人調査
相続人としての権利を有する方は、戸籍をたどることにより確認します。
現在、高齢な方の世代は戸籍が複雑であったり、兄弟が多い例が少なくありません。古い戸籍の場合には、旧字体による手書きで読みにくい上に、戸籍自体に誤記が認められることもあります。戸籍上の相続人調査だけでも一仕事となります。
当事務所では、法定相続人が20人を超えるような案件の相続人調査についても多数経験があります。なお、相続人の一部を欠いた遺産分割協議は無効だと解されています。とにかく相続人調査は慎重に行われなければなりません。
相続人が不在者
相続人は戸籍により調査をし、戸籍から住民票をたどることで、その所在を調査します。ところが、相続人の調査の結果、その居場所が不明な場合があります。
そのような場合には、親族で近い方に話を伺うこともできますが、「戦後、アメリカに行ったと聞いている」「数年前からまったく見かけない」「遺書を残して家を出たきり、行方がわからない」というように、連絡のとりようのない方がいる場合もあります。
このような場合には、いなくなった方(不在者)について、不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらい、その方と遺産分割協議を行うことになります。
不在者財産管理人の選任申立ては、当該不在者が不在である事情の調査等を要するものであり専門性を要します(当事務所では不在者財産管理人の選任に関する業務を取り扱っております)。
なお、実在するのに不在者だ、といって自分に都合のよい遺産分割協議を成立させるようなことは不可能です。不在者財産管理人は、不在者の調査を行いますし、遺産分割協議においては、特別な事情がない限り、家庭裁判所の許可を得て、法定相続分を取得する遺産分割協議を行うことになります。
相続人が未成年
こちらはよくあることですが、たとえば、未成年の子を残して父が死亡し、その法定相続人は母、長男(未成年)、二男(未成年)だとします。民法は、未成年者の法律行為について、法定代理人である親権者が代理することを定めていますので、本来であれば、長男と二男の遺産分割協議は、母が代わって行うことになりそうです。
ところが、母が、長男と二男の代理の自分と遺産分割協議を行ってしまい、全てを自分の財産にすることはできません。母は子との間で利益相反の関係にあるので、このような場合には、長男、二男にそれぞれ別々の特別代理人を選任しなければなりません。この選任の申し立ても家庭裁判所で行うことになります。
相続財産の調査
預金調査
相続財産について、「たしか預金があったはずだけれども、銀行がわからない」という場合、どのように調べればよいでしょうか。金融機関の口座がわかると、その口座から取引がある保険会社がわかるなど、生活状況が明らかになっていくことが期待できます。
金融機関を探すには、自分で各金融機関の窓口に行けば、口座の有無は教えてくれます(即答してくれるとは限りませんし、自らが相続人であることを証明する書類は必要です)。
しかし、遠隔地である場合、あるいは金融機関の口座が複数存在する可能性がある場合には、弁護士による調査のほうが早く正確な場合もあります。
その他、被相続人の郵便物から口座や保険の存在が明らかになることがあります。金融機関も年に1回程度は口座に残高があれば郵便を送付してきますので、注意をすることが必要です。郵便ポストをふさいでしまわずに、ご自身のところに郵便が転送されるように手続きすることも考えられます。
不動産調査
不動産については、どの自治体に不動産を所有しているかというところまで特定できれば、いわゆる名寄せ帳の取寄せにより調査が可能です。どの自治体に不動産があるかは、固定資産税の支払いの履歴、納付書の郵送等により確認できることがほとんどです。
ただし、名寄せ帳の取り寄せは初めての方にはご負担かもしれません。
名寄せ帳を確認したら、次は不動産登記簿を確認することになります。名義人、担保の有無、共有者の有無などを調べることができます。なお、不動産登記は住所ではなく地番がわからなければ取得できません。以前と比べ、都市圏の大部分は、インターネット上で地番の検索ができるようになりましたので、登記情報の取得には、随分と便利になっております。
以上の調査については、実費として数万円を要することも珍しくありません(実費とは、実際に自治体に戸籍の料金などで支払う金額で弁護士費用を含みません)。
当事務所に一定規模の相続事件をご依頼の場合には、財産調査は実費のみのご負担で対応致します。
遺産確認訴訟
特定の財産が、遺産かどうか争いになる、ということもあります。たとえば、父が死亡した際に、父が長男の名義を使っていた定期預金は、相続財産か、長男の財産なのか、相続人の間で紛争になることがあります。
逆に、亡くなった父の名義の土地だけれども、本当は長男が対価を支払っていたが登記を変えていないだけだった、という場合には、当該土地は遺産ではない、という紛争が生じる可能性があります。
さらには、父は株式を持っていたが、別の第三者が父の財産を自分の財産だと主張している場合も考えられます(この場合には、相続人全員の利害は一致しますが、第三者と遺産かどうか紛争がある)。
このように、遺産の範囲について争いがある場合には、それを決めるための訴訟をしなければなりません。この訴訟を遺産確認訴訟といいます。
この点について紛争が生じると、まずは何が遺産か確認しなければならないので、遺産分割の手続きは長期化する可能性が高くなります。
遺産分割の合意、遺産分割協議の成立
法定相続人と遺産が確定したら、相続人間で遺産の分け方について協議をします。これが整えば、遺産分割協議の成立となります。
もっとも、実際に不動産の登記名義を変更したり、被相続人の預貯金口座を解約する場合には、正式な遺産分割協議書と相続人全員の署名、実印による押印、印鑑証明書が必要となります。
遺産分割は法定相続分どおりでなければいけないのか
遺産分割は合意の問題ですので、まったく受領しないということでも構わないのです。納得の上、合意がなされたならば、問題はありません。
後述する寄与分を考慮しても、特別受益を考慮しても、いずれでも構わないとおうことになります。
寄与分
よく晩年の被相続人の介護をしていたので、それを考慮してほしい、ということが言われます。これは、法的には、寄与分の主張となります。
遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所で調停、審判がなされることになり、裁判所も寄与分を考慮し、判断をすることができます。
ただし、介護等における寄与分の考慮については、一般的にさほど考慮されないと言われていますが、いまだ議論の途中であり、今後の裁判所の判断には注目が必要な分野です。
なお、介護も老人ホームのような入所施設であれば、よほどの介護がなければ、介護を理由とした寄与分が認められる例は限られると思われます。
余計なことですが、親の面倒を一切見なかったからといって、マイナスの寄与分が生じるということはありませんし、だから、遺言書を作成すべきなのです。
特別受益
たとえば、長男だけ大学に進学し、医学部の学費を被相続人から受け取った、二男は自宅マンションの購入資金を被相続人から援助してもらった、三男は何も被相続人から受け取っていない、という場合、実質的な平等を考慮し、長男の進学費用、二男の自宅購入費用のうち被相続人からの援助部分を相続財産の計算において加算する考え方です(三男の取得分が増えることになります)。
遺産分割調停、審判
遺産分割協議がまとまらない場合には、遺産分割に関する調停を家庭裁判所に申し立てることになります。
調停は話し合いですが、裁判所が決める場合の示唆をすることがあり、法的な権利を考慮し話し合いが進められる点に特徴があります。
なお、調停は当事者ご本人での手続きが可能ですが、調停においても弁護士を代理人とする必要性は高いと考えます。相手方の資料をチェックする、主張の妥当性をチェックするには裁判所に任せるのではなく、自らの立場で行動できる弁護士が不可欠です。
仮に遺産分割調停で話し合いがまとまらなければ、遺産分割に関する審判がなされ、裁判所が遺産の分け方を決定することになります。
預金は、相続開始と同時に当然に分割されることなく、遺産分割の対象となる
最高裁判所は、相続における預貯金の扱いについて、平成28年12月19日に新たな判断をしました。その概要は「預金は、相続開始と同時に当然に分割されることなく、遺産分割の対象となる」というものです。
普段から遺言や相続に関する業務に携わっていない限り、全く重大性が分からないと思いますが、これまでの裁判実務、遺言、相続実務と大きく異なる判断がなされたのですから、以下のとおり、その影響は大きなものがあります。
これまで、預貯金債権は、相続発生と同時に法定相続分に従い、各相続人が取得することが可能でした。具体的には、父名義の預金600万円があり、その法定相続分が4分の1であれば、金融機関にその4分の1である150万円を直接に払い戻すように求めることが可能でした。
ただし、実際の銀行実務としては、全相続人の印鑑を求める運用がなされており、相続の手続きを求め銀行窓口に行っても、「法定相続人全員の印鑑が押印しないと払戻をしない」と案内をされていました。しかしながら、実際には、法定相続人が上記の場合であれば150万円の支払いを求め裁判をすれば、払戻を求めることができたのです。
ところが、今後は、「当然に分割されず、遺産分割の対象になる」ので、遺産分割がなされるまでは(全員の印鑑が押印されるまでは)、預貯金は凍結されたままになってしまいます。
なお、これまでのルールに弊害は大きかったのは事実です。例えば、長男は特別受益が多々あり、二男は父の財産形成に貢献した、その結果、多額の預貯金が遺産として残された、というような場合に、財産形成に貢献せず、散々父の面倒になった長男も預金を2分の1取得できたのですが、今後は、その点を考慮して、裁判所が長男3割、二男7割といった判断もできるようになったのです。