※本記事は、リスク法務実務研究会の会報誌に当事務所の弁護士が寄稿した「クレーム対応」コラム(2016年11月号〜2017年3月号・全5回)の内容を、2026年10月時点の法令に合わせて再構成したものです。
理不尽な要求、「誠意を見せろ」という電話、「保健所に通報する」「ネットに書き込む」といった言葉。企業や店舗にとって、顧客からのクレームへの対応は避けて通れない課題です。2026年10月1日からは、改正労働施策総合推進法により、従業員をカスタマーハラスメント(カスハラ)から守るための措置がすべての事業主に義務付けられました。
この記事では、福岡の弁護士が実際の相談事例をもとに、クレームを受けたときの考え方、事実確認の方法、落ち度がある場合・ない場合それぞれの対応、そして解決時に作成する示談書の書き方と文例を、Q&A形式で解説します。
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目次
- この記事の要点
- Q1. クレームを受けたら、まず何を考えればよいですか?
- Q2. 「誠意を見せろ」という電話にはどう対応すればよいですか?
- Q3. 「商品で体調を崩した」と言われたら、何を確認すべきですか?
- Q4. 調査の結果、当社に落ち度がなかった場合はどう回答しますか?
- Q5. 当社に落ち度がある場合はどう対応しますか?
- Q6. 示談書はどのように書けばよいですか?(文例つき)
- Q7. カスハラ対策は企業の義務になったのですか?
- Q8. 脅迫的な言動や居座りには、警察に相談してよいですか?
- Q9. 「ネットに書き込む」と言われたり、実際に書き込まれたりしたら?
- まとめ|クレーム対応は「事実確認」と「書面化」が鍵
この記事の要点
- クレーム対応の出発点は「①当社の落ち度 ②相手の損害 ③相手の要求 ④相手の情報」の4点の整理です。
- 法的責任がないのに金銭を支払う必要はありません。脅迫・業務妨害にあたる言動には警察への相談も検討します。
- 回答の前に、商品・購入記録・防犯カメラ・健康被害の有無などの事実確認を尽くすことが重要です。
- 落ち度がある場合は、早期の謝罪と受診の案内・治療費の負担で、過大な請求への発展を防ぎます。
- 金銭で解決する場合は、事案の特定と清算条項を入れた示談書を必ず作成します。
- 2026年10月1日から、カスハラ対策(方針の明確化・相談体制の整備など)が事業主の義務になりました。
Q1. クレームを受けたら、まず何を考えればよいですか?
A. 「当社に落ち度があるか」「相手に損害があるか」「相手は何を求めているか」「相手について何が分かっているか」の4点を整理します。
クレーム対応で最も避けたいのは、その場の圧力に押されて、根拠のない金銭支払いや不用意な約束をしてしまうことです。まずは次の4点を冷静に整理しましょう。
- 当社の落ち度の有無:商品・サービスや従業員の対応に問題があったか
- 金銭的な損害の有無:治療費、修理費など、相手に実際の損害が生じているか
- 相手の要求:謝罪なのか、交換・返金なのか、それ以上の金銭なのか
- 相手の情報:氏名・住所・連絡先がどこまで分かっているか
たとえば「配送車の運転マナーが悪い」という電話で、やや落ち度はあるものの金銭的損害はなく、相手が金銭を求めているというケースであれば、謝罪と再発防止の約束で足り、金銭を支払う法的義務はないという判断になります。
法的責任がなければ金銭は払わないのが原則
損害賠償義務は、相手に損害が生じ、それが当社の故意・過失(または契約違反、製造物の欠陥など)によって生じた場合に発生します。法的責任がないのに「早く終わらせたい」という理由で金銭を支払うと、要求がエスカレートしたり、同じ相手から繰り返し要求されたりするおそれがあります。
ただし、少額の解決金を支払ってでも早期に終結させる方が、従業員の負担や業務への影響を考えると合理的な場面もあります。その場合でも、後述する示談書で必ず「これで一切解決」という形を残すことが大切です。
Q2. 「誠意を見せろ」という電話にはどう対応すればよいですか?
A. 話をよく聞き、記録・録音を残し、謝罪は「不快な思いをさせたこと」に限定し、同じ担当者が一貫して対応します。金銭の約束はその場でしないことが鉄則です。
話を長く聞くことにも意味がある
相手の話をじっくり聞くことは、感情を落ち着かせるだけでなく、事実関係を把握する手段にもなります。話が長くなるほど、主張の食い違いや矛盾が出てくることがあり、それは相手の言い分の信用性を判断する材料になります。また、ささいな事柄で何時間も電話を続けること自体が、要求の不当性を示す事情になり得ます。
通話の録音は相手に断らなくてもよいか
自分が当事者となっている通話を録音することは、第三者の通話を盗聴するのとは異なり、一般に違法とはされていません。録音は、後に「言った・言わない」の争いになったときや、脅迫・業務妨害として警察に相談する際の重要な証拠になります。最近は「品質向上のため通話を録音しています」と自動音声で案内する企業も多く、カスハラの抑止効果も期待できます。
謝罪の言葉は責任を認めたことになるか
「ご不快な思いをおかけし、申し訳ございません」といった謝罪は、相手の感情に対するもので、法的責任を認めたことにはなりません。一方、「すべて当社の責任です」「損害は全額お支払いします」など、事実確認前に責任や賠償を認める発言は避けましょう。
担当者は一人に固定する
対応者が変わるたびに説明が食い違うと、そこを突かれて話がこじれます。窓口は一人(または特定のチーム)に固定し、担当者がその場で判断できないことは「確認して折り返します」「私では分かりかねます」と答えて、持ち帰るようにします。
Q3. 「商品で体調を崩した」と言われたら、何を確認すべきですか?
A. ①問題の商品の特定、②本当に当社の顧客か、③健康被害の有無と程度の3点を確認します。事実が分からなければ、法的責任や訴訟になった場合のリスクも判断できません。
たとえば「惣菜が変色していて、食べたら腹痛と嘔吐があった。保健所に通報し、ネットにも書き込む」というクレームを想定します。
① 商品の特定
- 現物が残っていれば保管してもらい、引き取りを申し出る。難しければ写真を送ってもらう
- 「どのような色に変色していたか」を具体的に聞き取る
- 同じ日・同じロットの商品について、製造工程や他の苦情の有無を社内で確認する
② 本当に当社の顧客か
- レシートの有無、POSデータなどの購入記録を確認する
- 防犯カメラの映像は上書きされる前に保存しておく
③ 健康被害の有無と程度
- 現に症状が続いている場合:まず医療機関の受診を勧め、「本日の受診費用は当社で負担します」と申し出ることも検討する(健康被害の拡大防止を最優先に)
- すでに回復している場合:受診した医療機関や診断内容、領収書などの資料の提出をお願いする
- 受診していないのに慰謝料を求められた場合:その場で回答せず「検討してご連絡します」と答える
食中毒が疑われるときは保健所への相談を
食中毒の疑いがある場合、医師には保健所への届出義務があり(食品衛生法)、保健所が調査に入ることがあります。事業者としても、隠すのではなく自ら保健所に相談・報告し、調査に協力する姿勢が、結果的に信頼の維持と被害拡大の防止につながります。
Q4. 調査の結果、当社に落ち度がなかった場合はどう回答しますか?
A. 調査を尽くしたうえで、調査内容と結論を書面で回答し、以後の窓口を弁護士とする方法が有効です。
「落ち度はない」と回答する前に、できる限りの調査を尽くしておくことが重要です。惣菜の例であれば、次のような調査が考えられます。
- 保健所への報告・相談
- 材料メーカーへの問い合わせ
- 自社の作業工程の検証
- 食品検査機関への検査委託
そのうえで、調査の経過と結論を具体的に示して回答します。
回答書の文例(落ち度がない場合)
当社は、貴殿からのお申し入れを受け、直ちに保健所に報告するとともに、材料メーカーへの問い合わせを行いました。その結果、ご指摘の変色は、食材として使用している紫キャベツの色が、混ぜ合わせが十分でなかったために他の食材に移ったことによるものと判明しました。
また、食品検査機関に検査を委託しましたが、腹痛の原因となるような細菌等は検出されませんでした。
以上のとおり、当社としては、変色は品質上の異常ではなく、また、腹痛についても当社商品が原因であるとは判断できないとの結論に至りました。したがいまして、当社として損害賠償等をする予定はございません。
なお、本件につきましては当社が弁護士に対応を委任いたしましたので、今後ご連絡がございましたら、下記弁護士宛にお願いいたします。
○○法律事務所 弁護士○○○○(電話:○○○-○○○-○○○○)
弁護士を窓口にするメリット
弁護士を窓口とすると、相手からの連絡が担当者や店舗に直接来なくなり、従業員の心理的負担や業務への影響を大きく減らせます。交渉の全部を任せる方法のほか、最終回答書の送付と以後の窓口だけを弁護士に依頼するという方法もあります。回答書を内容証明郵便で送ることで、回答した事実と内容を証拠として残すこともできます。
Q5. 当社に落ち度がある場合はどう対応しますか?
A. 早期に謝罪し、専門医の受診を案内して治療費を負担し、医師の判断に基づいて損害を確定させます。相手を軽んじる態度は禁物です。
美容室でカラー剤が額に付着し、「シミが一生消えない」と言われたケースを例に考えます。クレームの多くは、何らかの落ち度があり、それが誇張されて伝えられているものです。落ち度があるのに「大げさだ」という態度をとると、相手の感情を逆なでし、かえって請求が大きくなりがちです。
早期の受診と治療費の負担
- まず謝罪し、早い段階で皮膚科など専門医の受診を勧める
- 受診費用は「安心のために」当社で負担すると申し出る。可能であれば受診に同行する
- 症状の経過が分かるよう、定期的に写真を撮っておいてもらう
医師の診断に基づいて対応することで、「一生消えない」といった主張が客観的に検証でき、過大な請求を防ぐことができます。
慰謝料はどのくらいが目安か
一度の受診で治まる程度であれば、治療費の実費に加えて見舞金程度で解決することが一般的です。継続的な治療が必要になった場合は、治療費・通院交通費などの実費に加えて慰謝料が問題になり、その金額は、交通事故の損害賠償で用いられる通院期間に応じた慰謝料の基準が参考になります。後遺症が残るような場合は、医師の意見を踏まえて慎重に検討する必要があります。
金額がまとまったら、必ず次の示談書を作成しましょう。
Q6. 示談書はどのように書けばよいですか?(文例つき)
A. 「どの出来事についての合意か」を具体的に特定し、「これ以外に債権債務はない」という清算条項を必ず入れます。必要に応じて接触禁止・口外禁止の条項も加えます。
示談書に入れるべき項目
- 当事者:誰と誰の合意か(会社だけでなく、関係した従業員を当事者に加えることもある)
- 事案の特定:日時・場所・出来事を具体的に記載する
- 謝罪・再発防止:落ち度がある場合
- 解決金の額と支払方法:名目(慰謝料、損害金など)を問わず一切を含むことを明記
- 接触禁止・口外禁止:再度の来店や連絡、インターネット等での公表を防ぐ
- 清算条項:本件に関し、他に何らの債権債務もないことの確認
示談書の文例(テンプレート)
示談書
○○○○(以下「甲」という。)、株式会社○○(以下「乙」という。)及び○○○○(以下「丙」という。)は、令和○年○月○日午前○時○分頃、○○付近において、丙が運転する乙の配送車両の運転方法に関して甲が不快な思いをした件(以下「本件」という。)について、次のとおり合意した。
第1条 乙及び丙は、甲に対し、本件について謝罪するとともに、再発防止に努めることを約束する。
第2条 乙及び丙は、甲に対し、連帯して、本件の解決金(慰謝料、損害金、通信費その他名目の如何を問わない。)として金○○円の支払義務があることを認める。
第3条 乙は、前条の金員を本示談書調印の席上で甲に交付し、甲はこれを受領した。
第4条 甲は、今後、乙の店舗に立ち入らず、乙及び丙並びにその関係者に対し、面談、電話その他の方法による接触をしない。
第5条 甲、乙及び丙は、本件及び本示談書の内容を、正当な理由なく第三者に口外しない(インターネット上への投稿を含む。)。
第6条 甲、乙及び丙は、本件に関する一切の紛争が解決したものとし、本示談書に定めるもののほか、相互に何らの債権債務もないことを確認する。
以上の合意を証するため、本書3通を作成し、各自署名押印の上、各1通を保有する。
令和○年○月○日
甲 住所 氏名 印
乙 住所 株式会社○○ 代表取締役○○○○ 印
丙 住所 氏名 印
※上記は配送車の運転マナーに関するクレームを少額の解決金で解決した事例をもとにした文例です。実際の事案に合わせて内容を調整してください。治療が続く事案や後遺症が問題となる事案では、将来の損害の扱いなど追加の検討が必要です。
示談書作成時の注意点
- 解決金は、示談書の調印と引換えに支払う(先に支払うと、示談書への署名を拒まれることがある)
- 相手の本人確認を行い、住所・氏名を正確に記載してもらう
- 清算条項がないと、後日「別の損害がある」と追加請求される余地が残る
Q7. カスハラ対策は企業の義務になったのですか?
A. はい。改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、カスタマーハラスメントから従業員を守るための雇用管理上の措置が、規模や業種を問わずすべての事業主に義務付けられています。
法律では、カスハラを、おおむね「顧客等の言動であって、社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」と位置づけています。正当なクレームそのものはカスハラではありませんが、要求の内容や手段・態様が社会通念上相当な範囲を超える場合(暴言、威圧、長時間の拘束、執拗な電話、土下座の要求、SNSでの晒し上げなど)はカスハラにあたり得ます。
厚生労働省の指針では、事業主が講ずべき措置として、主に次のようなものが示されています。
- カスハラに対する方針を明確にし、従業員に周知・啓発すること
- 相談窓口など、相談に適切に対応するための体制を整備すること
- カスハラが起きたときに、事実関係を確認し、被害を受けた従業員への配慮など迅速・適切な対応をとること
- カスハラを抑止するための措置(対応マニュアルの整備、研修など)
- 相談者のプライバシー保護、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止
この記事で紹介した「担当者を固定する」「録音・記録を残す」「一定の段階で弁護士を窓口にする」といった対応は、社内の対応マニュアルを作る際の基本にもなります。
Q8. 脅迫的な言動や居座りには、警察に相談してよいですか?
A. はい。言動の内容によっては犯罪が成立し得ます。従業員の安全を最優先に、ためらわず警察に相談してください。
クレームの名を借りた次のような言動は、刑法上の犯罪にあたる可能性があります。
- 大声で怒鳴る、長時間居座るなどして業務を妨害する:威力業務妨害罪
- 「金を払わなければネットに書く」などと告げて金銭を要求する:恐喝罪(未遂を含む)
- 危害を加える旨を告げる:脅迫罪
- 土下座など義務のないことを無理やりさせる:強要罪
- 退去を求めても店舗から出ていかない:不退去罪
警察に相談する際は、録音・防犯カメラ映像・対応記録などがあると話が進みやすくなります。日ごろから記録を残す習慣をつけておきましょう。
Q9. 「ネットに書き込む」と言われたり、実際に書き込まれたりしたら?
A. 書き込みの予告だけで要求に応じる必要はありません。事実に反する投稿で名誉や信用が害された場合は、削除請求や投稿者の特定(発信者情報開示)を検討します。
正当な体験談の投稿を禁じることはできませんが、虚偽の事実を挙げて会社や店舗の社会的評価を下げる投稿は、名誉毀損や信用毀損にあたる可能性があります。その場合、次のような対応が考えられます。
- 投稿の画面を、URL・日時が分かる形で保存する
- サイト運営者やSNS事業者に削除を申し出る(2025年4月施行の情報流通プラットフォーム対処法により、大規模なプラットフォーム事業者には削除申出への迅速な対応が求められています)
- 発信者情報開示命令などの裁判手続で投稿者を特定し、損害賠償を請求する
アクセスログには保存期間があるため、投稿者の特定を考える場合は早めに弁護士へご相談ください。
まとめ|クレーム対応は「事実確認」と「書面化」が鍵
- まず「落ち度・損害・要求・相手の情報」の4点を整理する
- 電話は記録・録音し、担当者を固定し、その場で金銭の約束をしない
- 商品・購入記録・健康被害などの事実確認を尽くしてから回答する
- 落ち度がなければ書面で回答し、弁護士を窓口にする
- 落ち度があれば早期の謝罪と受診案内で損害を客観化し、示談書で解決する
- 2026年10月からはカスハラ対策が事業主の義務。対応方針とマニュアルの整備を
小川・橘法律事務所では、クレーム・カスハラへの対応方針のご相談、回答書や示談書の作成、弁護士による窓口対応、社内マニュアルの整備などをお手伝いしています。法人・個人事業主の方は初回60分の法律相談を無料でご利用いただけます。お気軽にご予約ページからお問い合わせください。
執筆者:弁護士 小川剛(小川・橘法律事務所/福岡県弁護士会)
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。元となったコラムはリスク法務実務研究会の会報誌に掲載されたものです。個別の事案については弁護士にご相談ください。
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