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差押後の競合
A社に対する債権回収のために、A社の債権(取引先であるB社への売掛金)の差押えをしました。
ところが、債権額全額の回収ができませんでした。どうも、他社も差押をしたようで、差押えが競合した、ということでした。どういうことでしょうか?
差押の申立てから配当までのフロー
差押えの申立てをしても、すぐに現金が振り込まれるわけではありません。まずは、差押から入金までの簡単なフローを紹介します。以下、概要での説明となりますので、やや不正確な記載にもなりますが、ご了承ください。
まず、本件の場合には、差押命令が裁判所からB社に送付されます。この場合のB社を第三債務者といいます。そして、同じく債務者であるA社に対しても送付されます。
その後、1週間が経過すると、債権者はB社に直接支払うよう請求することが出来ます。こうして、B社から債権者に支払いがなされるというのが、最も一般的な債権回収のフローです。
B社(第三債務者)が支払いをしないケース
これに対し、B社が支払いをしないパターンは色々とありえます。
例えば、そもそもA社に対して債権がない、というような場合には、当然、B社は支払いをしてくれません。また、今回の質問のように、他に債権者が同じ債権を差押えしている、あるいは、仮差押をしている、といった場合には、第三債務者は「供託」という手続きをしなければなりません。
この場合には、配当手続きとなります。債権者は配当要求をし、配当を待つことになります。配当になる場合には、優先される債権がなければ、債権額に応じて配当されることになります。配当手続きとなった場合、他に債権者がいるのですが、誰がどれだけの債権を有しているのかは配当表を見るまでは分かりません。思わぬ債権者の登場により、配当額が少ないということも起こりえます。
なお、他の債権者の配当額に納得がいかない場合には、配当異議といった手続きが必要となりますが、専門的ですし、あらかじめの準備が必要になりますので、差押債権が配当の手続きになりそうな場合には、その時点で弁護士に相談されることをお勧めします。
給与が差し押さえられた
お金を借りていたところ、給料を差押えされてしまいました。私の手取り給料20万円の4分の1である5万円が毎月債権者に支払われるようです。これではローンを支払うと生活できません。どうにかならないでしょうか?
差押の範囲の変更
差押ができる範囲は、差押を受ける側の生活の面も配慮し、給料であれば4分の3に相当する部分は差し押さえてはならない、とされています(民事執行法152条)。
差押をする債権者の側からすれば、給料であっても、その全額を返済にまわさせたいところでしょうが、債務者にも生活があります。
債務者としては、手取り20万円で生活が困難な場合もありえます。そのような場合には、差押の範囲を縮減する手続き(差押禁止範囲の拡張))をとることが考えられます。
民事執行法153条1項は、「執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。」と定めています。
差押範囲変更の具体的な手続き
上記の条文のとおり、債務者は、裁判所に対し、「債務者の生活の状況」等、差押を受けることによる弊害を書面として、申立書を提出する必要があります。
具体的には、世帯全員の収入、資産、家計表といった資料、生活状況を説明する陳述書を提出することになります。例えば、病気の家族がおり、仕事ができない、医療費を要するといった事情も記載することになります。
そうすると、一方で、債権者の事情も考慮するために、債権者の事情も確認することになります。
債権者にもっと厳しい事情がある場合、たとえば、事故で仕事ができなくなっており、そのための加害者に対する不法行為債権による差押え、といったような場合には、債務者も多少の苦しみを負うことは公平の点から考慮されることになります。
このような双方の事情を確認した上で、裁判所は、差押禁止の範囲を変更するか判断し、場合によっては、差押の範囲の縮減が実現されることになります。
本コラムはリスク法務実務研究会にて当事務所の弁護士小川剛が担当している内容を、一部改訂して掲載しております。
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