※本記事は、リスク法務実務研究会の会報誌に当事務所の弁護士が寄稿した「相続・遺言」コラム(2017年4月号〜2018年3月号・全12回)のうち、相続法の見直しと相続対策に関する回を、2026年10月時点の法令に合わせて再構成したものです。コラム執筆当時は「改正案」だった制度は、現在すべて施行されています。
2018年に成立した相続法の大幅な改正により、配偶者居住権や特別寄与料、自筆証書遺言の保管制度など新しい制度が次々と始まりました。さらに2021年の民法・不動産登記法改正で、相続登記の義務化や遺産分割の期間制限も導入されています。
この記事では、福岡の弁護士が、相続法改正後の主な制度と、実務での使いどころ・注意点、一般社団法人を使った相続対策のリスクなどを、Q&A形式で解説します。
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この記事の要点
- 配偶者居住権(2020年4月〜)は、配偶者が自宅に終身無償で住み続けられる権利です。自宅の「所有権」と「住む権利」を分けることで、配偶者が預貯金も取得しやすくなります。
- 配偶者居住権を遺言で与えるには「遺贈する」と書き、取得後は登記が必要です。譲渡はできません。
- 特別寄与料(2019年7月〜)は、長男の妻など相続人ではない親族が、無償で介護などをした場合に相続人へ金銭を請求できる制度です。請求期限は短く、注意が必要です。
- 2024年4月から相続登記が義務化され、2026年4月からは住所等の変更登記も義務化されました。
- 一般社団法人を使った相続対策は、税制改正と「持分がない」ことによる支配権の問題に注意が必要です。
Q1. 相続法改正で何が変わりましたか?
A. 2019年から2020年にかけて、遺言・遺留分・配偶者の保護・相続人以外の貢献などに関する制度が段階的に施行され、その後も相続登記の義務化などが続いています。主な変更点は次のとおりです。
| 施行日 | 主な内容 |
|---|---|
| 2019年1月13日 | 自筆証書遺言の財産目録をパソコン等で作成可能に |
| 2019年7月1日 | 遺留分の金銭請求化(遺留分侵害額請求)、遺産分割前の預貯金の払戻し制度、特別寄与料、婚姻20年以上の夫婦間の自宅の贈与等の優遇、遺言執行者の権限の明確化 |
| 2020年4月1日 | 配偶者居住権・配偶者短期居住権 |
| 2020年7月10日 | 法務局による自筆証書遺言書保管制度 |
| 2023年4月1日 | 相続開始から10年経過後の遺産分割では原則として特別受益・寄与分を主張できなくなる |
| 2023年4月27日 | 相続土地国庫帰属制度(不要な相続土地を国に引き取ってもらう制度) |
| 2024年4月1日 | 相続登記の申請義務化(取得を知った日から3年以内。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料) |
| 2026年4月1日 | 不動産所有者の住所・氏名等の変更登記の義務化(変更から2年以内。正当な理由なく怠ると5万円以下の過料) |
自筆証書遺言や預貯金の扱いは「遺言書の書き方Q&A」、遺留分の金銭請求化は「遺留分の計算と請求Q&A」で詳しく解説しています。
Q2. 配偶者居住権とはどのような権利ですか?
A. 夫(または妻)が亡くなったとき、残された配偶者が、それまで住んでいた亡くなった方名義の自宅に、原則として終身、無償で住み続けられる権利です(民法1028条)。
配偶者居住権の主なルール
- 取得方法:遺産分割(協議・調停・審判)、遺贈、死因贈与のいずれか。遺言で与える場合は「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます
- 対象の建物:亡くなった方の単独所有か、配偶者との共有の建物。第三者との共有の建物には設定できません
- 登記:建物の所有者には登記を備えさせる義務があり、登記をしておけば建物が売却されても住み続けられます(民法1031条)
- 譲渡不可:配偶者居住権は売ったり他人に譲ったりできません。第三者に貸すには所有者の承諾が必要です
- 費用:固定資産税や通常の修繕費など、建物の通常の必要費は配偶者が負担します
Q3. 配偶者居住権はどんな場面で役立ちますか?
A. 自宅の価値が高く、配偶者が自宅を相続すると生活資金となる預貯金を十分に取得できない場合や、前妻の子と後妻が相続人になる場合などに役立ちます。
計算例:後妻と前妻の子が相続人の場合
夫が亡くなり、相続人は後妻と前妻の子1人(法定相続分は各2分の1)。遺産は自宅3,000万円と預金3,000万円とします。
- 配偶者居住権を使わない場合:後妻が自宅(3,000万円)を取得すると、預金はすべて子のものになり、後妻の手元に生活資金が残りません。
- 配偶者居住権を使う場合:自宅の所有権は子が、配偶者居住権は後妻が取得します。仮に配偶者居住権の評価が1,500万円とすると、後妻は配偶者居住権1,500万円+預金1,500万円、子は自宅の所有権(居住権付き)1,500万円+預金1,500万円を取得できます。
※配偶者居住権の評価額は、配偶者の年齢(平均余命)や建物の築年数などによって大きく変わります。上記は説明のための仮の数字です。
実務上の注意点
- 評価が難しい:相続税の計算では評価方法が法律で定められていますが、遺産分割の場面では当事者の合意や鑑定が必要になることがあり、前妻の子と後妻のように対立しやすい関係では、評価自体が争点になります。
- 後から売却しにくい:配偶者が施設に入所して自宅に住まなくなっても、居住権を売って費用に充てることはできません。所有者との合意で居住権を消滅させる場合には、税金の問題が生じることもあります。
- 配偶者を守るだけなら遺言で足りることも:配偶者の生活を守ることが目的なら、自宅も預金も配偶者に遺す旨の遺言書を作ることでも対応できます。また、婚姻期間20年以上の夫婦の一方が、他方に自宅を遺贈・贈与した場合は、原則として遺産分割でその分を考慮しない(持ち戻し免除の推定)というルールもあります(民法903条4項)。
配偶者居住権は相続問題の「特効薬」ではありませんが、前妻の子に最終的に自宅を残しつつ後妻の住まいを確保したい場合や、事業を営む子に自宅を残しつつ、事業がうまくいかなくなっても配偶者が住み続けられるようにしたい場合などに、有力な選択肢になります。
Q4. 配偶者短期居住権とは何ですか?
A. 配偶者が無償で住んでいた自宅に、相続開始後しばらくの間、引き続き無償で住める権利です(民法1037条)。特別な手続なしに当然に認められます。
自宅が遺産分割の対象であれば、遺産分割で取得者が確定する日か相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで、住み続けられます。遺言で自宅が他の人に贈られた場合でも、取得者から立ち退きを求められてから6か月間は住むことができます。配偶者が突然住まいを失うことを防ぐための制度です。
Q5. 特別寄与料とは何ですか?長男の妻の介護は報われますか?
A. 相続人ではない親族(長男の妻など)が、無償で療養看護(介護)などを行い、亡くなった方の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できます(民法1050条)。
改正前は、長男の妻が義理の父母を長年介護しても、相続人ではないため遺産を受け取れず、介護をしなかった他の相続人との不公平が問題になっていました。
特別寄与料の注意点
- 請求できる人:相続人ではない「親族」(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)。内縁の配偶者や友人は対象外です
- 無償であること:報酬を受け取っていた場合は対象になりません
- 請求期限が短い:当事者間で協議が整わない場合、家庭裁判所への請求は、相続の開始と相続人を知った時から6か月以内、かつ相続開始から1年以内にしなければなりません
- 証拠が重要:介護の期間・内容・頻度を示す介護日誌、要介護認定の資料、通院の記録などを残しておきましょう
介護の金銭評価はもともと難しく、請求できる額が介護の負担に見合わないと感じられることも少なくありません。介護をしてくれた親族に報いたい場合は、遺言書でその人に財産を遺贈しておくのが最も確実です。
Q6. 一般社団法人を使った相続対策は有効ですか?
A. 以前は「相続税がかからない」と宣伝されたこともありましたが、2018年度の税制改正で一定の場合に相続税が課されるようになりました。また、「持分がない」ことによる法的リスクもあり、慎重な検討が必要です。
一般社団法人は設立が簡単で、収益事業も営めます。「非営利」とは、利益を社員に分配しないという意味です。かつては、財産を法人に移しておけば個人の相続財産にはならず、子が理事として役員報酬を受け取り続けることで相続税を回避するスキームが広がりました。しかし現在は、同族の理事が過半を占めるなどの一般社団法人では、理事の死亡時に法人に相続税が課される仕組みが導入されています。税務の詳細は税理士にご確認ください。
「持分がない」ことのリスク
- 株式会社の株式のように持分を分けられないため、子が複数いる場合に「誰が法人を支配するのか」をめぐって対立しやすくなります。
- 当初は長男を後継者にしていたが、後に二男に変えたくなったという場合、長男の意向に沿う理事で固められていると、簡単には変更できません。
- 一度法人に移した財産は、解散しても出資者に戻るとは限りません。
新しいスキームを使う場合は、税金面だけでなく、こうした法的なリスクを理解したうえで判断することが大切です。
Q7. 相続対策として、まず何から始めればよいですか?
A. 財産の一覧を作り、誰に何を遺したいかを整理したうえで、遺言書を作成することが基本です。税金対策は、税制改正も踏まえて税理士と連携して進めましょう。
- 遺言書の作成:紛争を防ぐための最も確実な方法です。配偶者居住権の遺贈や、介護してくれた親族への遺贈も遺言書で定められます。
- 不動産の登記の整理:親や祖父母の名義のままの不動産がある場合、相続登記の義務化(2024年4月以前の相続にも適用)に備えて早めに整理しましょう。引越しなどで住所が変わった場合の変更登記も、2026年4月から義務化されています。
- 生前贈与:毎年少しずつ贈与する「暦年贈与」は従来からの対策ですが、税制改正により、2024年以降の贈与については相続財産に加算される期間が段階的に延長されています。どの方法が有利かは税理士にご確認ください。
- 不要な土地の整理:相続したが使い道のない土地は、一定の要件を満たせば相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらえる場合があります(審査手数料と負担金が必要)。
まとめ|新しい制度は「選択肢」。基本は遺言書と財産の整理
- 配偶者居住権は、自宅の「所有権」と「住む権利」を分ける制度。前妻の子と後妻がいる場合などに有効だが、評価や売却のしにくさに注意
- 配偶者短期居住権は、相続後しばらくの住まいを当然に守る権利
- 特別寄与料は、相続人以外の親族の介護を報いる制度。請求期限(6か月・1年)に注意
- 相続登記と住所等の変更登記は義務化済み
- 一般社団法人などのスキームは、税制改正と法的リスクを理解してから
小川・橘法律事務所では、配偶者居住権を活用した遺言書・遺産分割、特別寄与料の請求、相続対策のご相談をお受けしています。相続全般については遺産相続のページもご覧ください。ご相談はご予約ページからお気軽にどうぞ。
執筆者:弁護士 小川剛(小川・橘法律事務所/福岡県弁護士会)
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。元となったコラムはリスク法務実務研究会の会報誌に掲載されたものです。税務については税理士に、個別の事案については弁護士にご相談ください。
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