売買契約とは、皆様がイメージされているとおり、「売る」と「買う」の契約です。
少し難しく言うと「財産権を移転することに対し、対価を支払うことを約束する」という契約です。
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売買契約の注意点
売買契約書に記載すべき内容
- 売主
- 買主
- 売買の目的となる財産権(物・数量など)
- 金額
は不可欠です。
特に、後で金額でもめそうだという時には、金額をしっかりと書き込むこと、数量でもめそうだという場合には、その数量をしっかりと書き込むことが必要です。これが、簡単なようで意外と難しいことがあります。
売買契約書における100坪100万円の意味
- 目的物:福岡市中央区Aの土地100坪
- 代金:100万円
と契約書に記載し、売買契約を締結したとします。何もなければ、このような記載で足りるかもしれません。ところが、A土地を実際に測量したら、対象の土地は90坪しかありませんでした。
このとき
- 買主は「1坪1万円という話で100万円という契約をしたのだから、90坪しか無い以上、90万円しか支払わない」
- 売主は「Aの土地を100万円」という話なのだから、多少坪数が違っても100万円で契約した」
と考えるかもしれません。
このとき「100坪100万円」の合意はどのように解釈されるのでしょうか。
不動産売買においては、坪単価×実測数という販売方法も多いですから、買主側の主張も説得的です。一方で、売主のいうような契約の仕方も一般的と言えますから、こちらの主張も説得的です。
結局、この契約書では、金額という重要な部分について多義的な解釈が可能となるので、契約書としては検討が不十分だったと言わざるを得ません。
もちろん、裁判となれば、契約書記載内容以外の事情等も考慮の上、売主側あるいは買主側のどちらかの言い分が認められることになりますが、やはり無用な紛争というべきでしょう。
このような事態を回避するならば、
- 買主としては「坪単価1万円とし、実測の上、代金を決定し清算する」
- 売主としては「現状有姿での売買とし、実測により坪数に不足があっても代金の清算をしない」
旨の一文を入れるべきでした。
売買契約に関するその他の注意点
単純な売買契約でもトラブルは絶えません。リスクを想定し続けてもキリがありませんが、考えられることに対しては、備えるべきです。
例えば、商品の引き渡し時はいつなのか、それまでに商品が故障した場合には、誰が責任を負うのでしょうか。
田舎の古い家を「古民家を再築する材料としたい」というから安く売っただけなのに、その家の雨漏りの修理代金を請求された、このとき修理代金を支払わなければいけないのでしょうか。
前者は引き渡しと危険負担の問題、後者は瑕疵担保の問題です。引き渡し時期は代金回収の問題とも関連してきます。
これらはいずれも、契約書の内容によって随分とトラブルを回避できるようになります。
瑕疵担保責任とは?
「売買契約」の条項の中でもトラブルが多い瑕疵担保責任の問題と契約条項について説明をしたいと思います。瑕疵担保責任は日常会話で使うことはありませんが、売買契約では不可欠な考え方です。
瑕疵担保責任とは、簡単には「売買の目的物に欠陥等があった場合に、買主が売主に対し、売主の過失を要件としないで代金減額請求権・損害賠償請求権・契約解除権を有する」というものです。
一般的な損害賠償請求としては、「過失」が要求される場合がほとんどですが、売主に「過失」が無くとも請求が出来るという点がポイントです。例えば、購入した商品に欠陥があることが判明した場合、買主は売主に過失がなくとも、瑕疵担保責任を請求することができます。
このように瑕疵担保責任は買主保護の制度と言えますが、瑕疵担保責任に関しては、民法(他に商法、住宅の品質確保の促進に関する法律、宅建業法等)に条文がありますので、何らの合意をしなければ、民法等により解釈されることになります。
そこで、売主サイドとしては、瑕疵担保責任が生じないようにする、あるいは制限するような契約を締結することが考えられます。
※ただし、宅建業法、消費者契約法の関係で、瑕疵担保責任を免れる契約条項が無効となる場合がありますので、その点は注意が必要です。
瑕疵担保責任に関する条項
①売主の負担を免除する条項
端的に「本売買契約に関し、売主は瑕疵担保責任を負わないものとする」といった条項が考えられます。
前回の末尾に記載した「古民家を再築する材料とするために古い家を現状のままで売る」という場合には、このような条項が適切だと考えます。また、壊れていることを前提に中古品を売買する場合にも、この条項が適切です。
②金額を制限する条項
瑕疵担保責任による責任は負うが、売買代金の一定額に制限するような条項「売主は本売買契約の目的物に瑕疵が認められた場合、支払済みの売買代金の範囲のみの責任を負う」が考えられます。
その他、大量に生産している商品であれば、瑕疵があった場合に損害賠償請求は認めないが、同種商品との交換に応じる、といった旨の条項も考えられます。
③瑕疵担保責任を追及できる期間を制限する条項
瑕疵担保責任を追及できる期間については民法・商法に定められていますが、さらに短い期間に限ることが考えられます。また、この場合、合意期間内に請求がなされたのか紛争を避けるために、「請求の通知は書面による」といった条項とセットとすることが考えられます。
買主の立場では
今回は売主側の説明が中心となりましたが、買主としても後々、瑕疵担保責任が追及できないということがないように、十分に確認をすべき事項です。
買主としては商品に問題があることのリスクを把握できれば、瑕疵担保責任を制限してもいいと思いますが、そうではないのであれば、商品の現状をできるだけ十分に確認することとあわせて、瑕疵担保責任がどのように制限されるのか確認することが必要です。
瑕疵担保責任の契約条項は誠実な内容で
売主にとって瑕疵担保責任を制限する意味はご理解いただけたと思いますが、このような制限を定めたとしても「売主が知っている欠陥を隠して買主に売り、瑕疵担保責任を契約で逃れようとする」場合には、これらの条項は適用されないとお考えください。このような悪質な場合には、瑕疵担保責任はもちろん、債務不履行・不法行為としての損害賠償請求は避けられません。
契約書で保護されるのは、くれぐれも誠実な取引であることが前提です。売主はトラブルを避けるためには、契約条項はもちろんですが、商品について十分な説明をすることが重要なことは言うまでもありません。
本コラムはリスク法務実務研究会にて当事務所の弁護士小川剛が担当している内容を、一部改訂して掲載しております。
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