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地震・自然災害の法律相談Q&A|住宅ローン減免・賃貸・隣家の塀・悪徳商法

※本記事は、2016年の熊本地震の際に当事務所の弁護士小川剛が「リスク法務実務研究会」で連載した「震災関連」コラム(全6回)を、2026年10月時点の法令に合わせて再構成したものです。

 地震や豪雨などの自然災害に遭うと、生活の再建と並行して、住宅ローン、賃貸住宅、隣家とのトラブル、建物の欠陥、会社の資金繰り、悪徳商法など、さまざまな法律問題が一度に起こります。この記事では、被災後に弁護士への相談が多い質問をQ&A形式でまとめました。

この記事の要点

  • 被災して住宅ローンが払えないときは、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(被災ローン減免制度)で、破産せずにローンを減額・免除できる場合があります。
  • 賃貸住宅の修繕は原則として大家の義務です。使えない部分があれば、家賃はその割合に応じて減額されます。
  • 大地震で隣家の塀が倒れてきた場合、撤去は求められますが、損害賠償は「不可抗力」として認められないことがあります。
  • 耐震偽装・手抜き工事が分かったときは、売主・施工者だけでなく、契約関係のない建築士にも責任を問える場合があります。
  • 取引先の被災で資金繰りが悪化した事業者は、災害連動の融資や民事再生などを早めに検討しましょう。
  • 屋根修理をうたう悪徳業者には注意。訪問販売なら、契約書面を受け取ってから8日以内はクーリング・オフができます。

Q1. 地震で自宅が壊れ、住宅ローンが払えません。どうにかなりませんか?

A. 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(通称:被災ローン減免制度)を使えば、破産をせずに住宅ローンなどの減額・免除を受けられる可能性があります。

 このガイドラインは、東日本大震災の経験をもとに、金融機関や弁護士会などがつくった自主的なルールで、2016年4月から運用されています。熊本地震で初めて本格的に使われ、その後の豪雨や地震でも利用されています。主な特徴は次のとおりです。

  • 破産と違い、個人信用情報(いわゆるブラックリスト)に登録されません。
  • 生活再建のため、預貯金などの財産の一部を手元に残せます。公的な支援金や義援金も、原則として返済に充てる必要はありません。
  • 登録支援専門家(弁護士など)の支援を無償で受けられます。
  • 住宅ローンだけでなく、カードローンや、個人事業者の事業性ローンも対象です。

 対象となるのは、災害救助法が適用された自然災害の影響で、既存のローンを返済できなくなった個人や個人事業者です。ただし、災害の前から返済が滞っていた場合などは対象外となることがあります。

手続きの流れ

  1. 借入れが最も多い金融機関(多くの場合は住宅ローンの借入先)に、ガイドラインの利用を申し出る
  2. 弁護士会などを通じて、登録支援専門家(弁護士)が委嘱される
  3. 弁護士の支援を受けながら、すべての借入先に債務整理を申し出て、返済計画(調停条項案)を作る
  4. 金融機関の同意を得て、簡易裁判所の特定調停で正式に成立させる

 返済計画は、金融機関にとっても破産より有利であることが前提になります。たとえば、建物は壊れたが土地は残っている場合、土地の価値に見合う分は返済を続け、建物の分のローンを減免してもらう、といった形が考えられます。建物分の負担がなくなれば、再建のために新たなローンを組める可能性もあります。

被災直後にしておきたいこと:写真と罹災証明書

 ガイドラインの利用、地震保険金の請求、被災者生活再建支援金(全壊などの場合、最大300万円)などの公的支援では、ほとんどの場合、市町村が交付する罹災証明書が必要になります。被害の程度を証明できるよう、片付けや修理を始める前に、建物の内外や家財の被害を写真に残しておくことが重要です。

Q2. 地震で賃貸住宅が壊れました。修繕・家賃・退去はどうなりますか?

A. 修繕は原則として大家(貸主)の義務です。使えない部分があれば家賃は減額され、退去も契約に従ってできますが、入居者の都合で退去する場合に立退料を請求するのは難しいでしょう。

修繕は誰がする?

 賃貸住宅では、大家が修繕義務を負います(民法606条)。地震で壊れた場合も同じで、入居者が柱や壁を自分で直す必要はありません。大家に修繕を依頼しても相当な期間内に対応してもらえないときや、急を要するときは、入居者が自ら修繕し、その費用を大家に請求できます(民法607条の2・608条)。
 ただし、古い建物を相場より安い家賃で貸す代わりに「大家は修繕義務を負わない」という特約がある場合は、例外的に入居者が修繕する必要があるかもしれません。契約書を確認しましょう。

家賃は減額される?

 2020年4月施行の改正民法で、入居者の責任でなく部屋の一部が使えなくなった場合、家賃は使えない部分の割合に応じて当然に減額されることになりました(民法611条1項)。また、建物が全壊するなどして使えなくなった場合は、賃貸借契約は終了します(民法616条の2)。どの程度減額されるかは状況によるため、まずは大家や管理会社と話し合うことになります。

退去したい。立退料はもらえる?

 多くの住宅の賃貸借契約には「1か月前に通知すれば解約できる」といった中途解約の条項があり、入居者はそれに従って退去できます。一方、「落ち着かないので引っ越したい」という入居者側の都合で退去する場合に、大家に立退料を請求するのは難しいでしょう。
 反対に、入居者は住み続けたいのに、大家が被災をきっかけに建物を取り壊して建て替えたいという場合は、大家側に正当事由が必要で、立退料が問題になります(借地借家法28条)。詳しくは不動産の賃貸借契約もご覧ください。

Q3. 隣家の塀が倒れてきて、敷地と車が被害を受けました。誰が責任を負いますか?

A. 自分の敷地に入った塀の撤去は隣人に求められます。一方、大地震で倒れた場合の損害賠償は、不可抗力として認められないことがあります。

塀の撤去

 自分の敷地に隣家の物が入り込んだ場合、その撤去を求めることができます。隣人との話し合いも、法的に撤去を求められることを前提に進めて構いません。

損害賠償(工作物責任)

 塀のような工作物の設置や保存に問題(瑕疵)があって他人に損害を与えた場合、占有者や所有者は損害賠償責任を負います。特に所有者は、過失がなくても責任を負います(民法717条)。
 ただし、大規模な地震の場合にまで、基準どおりに建てた塀の所有者に責任を負わせるのは酷です。宮城県沖地震に関する裁判例(仙台地判平成4年4月8日)などでは、「震度5程度には耐えられるようにすべきだが、震度6以上は不可抗力」という考え方が示されてきました。この考え方によれば、震度6強や震度7の地震で倒れた塀について、隣人の責任を問うのは難しいと考えられます。
 もっとも、阪神・淡路大震災や東日本大震災を経て建築の基準は引き上げられており、「震度6は予測できた」と判断される可能性もあります。また、本震で傾いた塀を修理せずに放置し、後の小さな余震で倒れたような場合は、放置したことの責任が問われる可能性があります。結論は個別の事情によって変わります。

車の損害は保険で対応できる?

 多くの自動車保険(車両保険)では、地震・噴火・津波による損害は補償の対象外です。地震特約を付けている場合は一時金が支払われることもあるので、保険証券や保険会社に確認しましょう。保険が使えない場合に隣家に請求できるかは、上記の工作物責任の問題になります。
 隣人との紛争は精神的な負担も大きいものです。話し合いで解決できないときは、簡易裁判所の民事調停などを利用する方法もあります。

Q4. 自宅だけが壊れ、調べると耐震偽装でした。誰に責任を問えますか?

A. 売主や施工会社には契約上の責任を、偽装した建築士や施工者には、契約関係がなくても不法行為による損害賠償を請求できる場合があります。

「耐震偽装」といえるか

 国の耐震基準は大地震をきっかけに段階的に引き上げられてきました。耐震偽装といえるのは、建築当時の法令の基準を満たしていなかった場合です。当時の基準を満たしていれば、現在の基準に届かなくても、また基準を満たしていて壊れた場合も、耐震偽装とはいえません。
 偽装には、①設計の段階から耐震性が偽られている場合と、②設計は基準を満たしているのに、手抜き工事で必要な柱や鉄筋がない場合があります。②の場合は設計に問題がないため、設計者ではなく施工者の責任が中心になります。

誰にどんな責任を問えるか

  • 契約の相手方(売主、ハウスメーカー、施工会社など):契約不適合責任(2020年3月以前の契約では瑕疵担保責任)や債務不履行責任。新築住宅の構造耐力上主要な部分については、住宅品質確保法により、引渡しから10年間の責任が義務付けられています。
  • 契約関係のない建築士・施工者:建物としての基本的な安全性を損なう欠陥がある場合、不法行為による損害賠償を請求できるとした最高裁判例があります(最判平成19年7月6日)。偽装図面を作成した建築士は、建築士法違反として刑事責任を問われる可能性もあります。

 これらの請求には期限があります。契約不適合責任は、原則として不適合を知った時から1年以内に相手に通知する必要があります。不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年(人の生命・身体の侵害は5年)、不法行為の時から20年で時効になります。

「耐震住宅」として買った家が壊れた場合

 「耐震住宅」などとして販売されていた場合は、契約書に独自の保証が定められていることがあります。ただし、保証の範囲が「建物の再築費用に限る」などと限定されていたり、保険会社ではなく建築会社の自社保証で、その会社の支払能力が問題になったりすることもあります。契約書をお持ちのうえで、弁護士にご相談ください。

Q5. 取引先が被災して売掛金が回収できず、当社も資金繰りが危うくなっています(事業者向け)

A. 災害時の特別な融資や共済制度をまず確認し、それでも難しい場合は、民事再生や私的整理などの再建手続きを早めに検討しましょう。

資金繰りの対策

 大きな災害では、日本政策金融公庫の災害復旧貸付や、自治体の制度融資など、低金利・無利子の融資が設けられることがあります。自社が直接被災していなくても、取引先の被災で資金繰りに影響が出た場合に利用できるものもあります。ただし受付期間が限られていることが多いので、取引のある金融機関に早めに相談しましょう。
 取引先が倒産した場合に備える制度として、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)があります。加入していれば、取引先の倒産時に無担保・無保証人で貸付けを受けられます。

再建手続きの検討

 融資を受けられず、それでも事業自体には収益力がある場合は、民事再生手続きが考えられます。たとえば「負債の一部を数年間で分割して支払う」といった再生計画を立てることで、資金繰りを大きく軽くできます。また、裁判所を使わずに金融機関と話し合う私的整理(中小企業の事業再生等に関するガイドラインなど)もあります。個人事業者であれば、Q1の被災ローン減免制度も対象になります。
 いずれの手続きも、従業員の士気や取引先の理解といった現実的な課題があり、弁護士・税理士・社会保険労務士などの専門家と連携して進める必要があります。

民事再生の計画を履行中に被災した場合

 再生計画の履行中に災害など不測の事態が起きた場合は、裁判所に再生計画の変更を申し立てることが考えられます(民事再生法187条)。手続きの状況によっては、新たな借入れに裁判所や監督委員の同意が必要な場合もあるため、再生手続きを依頼した弁護士とすぐに協議してください。

Q6. 被災後の「ブルーシート詐欺」などの悪徳商法を防ぐには?

A. その場で契約せず、金額を書面で確認し、代金は後払いにしましょう。訪問販売で契約してしまっても、契約書面を受け取ってから8日以内ならクーリング・オフができます。

 大きな地震の後は、屋根にブルーシートをかけた家が多く見られます。これを目印に「屋根を修理します」と訪問し、高額な代金を請求する業者がいます(いわゆる「ブルーシート詐欺」)。「火災保険を使えば無料で修理できる」と勧誘し、高額な手数料を請求するトラブルも報告されています。もちろん、良心的な業者も多くいます。

被害を防ぐためのポイント

  • 信頼できる業者に依頼する(知人の紹介でも高額請求を受けた例があるので油断は禁物)
  • 作業を依頼する前に、金額と工事内容を書面で確認する
  • 代金は全額先払いにせず、できれば工事完了後に支払う
  • 契約前に家族などに相談し、金額や工事の妥当性について意見をもらう
  • 断りにくいときは、「家族に相談しないと決められない」「弁護士に相談してから」と伝える

 悪質な業者は、「せっかく見積もりをしてもらったのに申し訳ない」という心理につけ込みます。当事務所では、高齢者向けの法律相談などで名刺をお渡ししていますが、弁護士と面識があること自体が、悪徳業者への抑止になります。

契約してしまったときは

 業者が自宅を訪問して結んだ契約(訪問販売)であれば、契約書面を受け取った日から8日以内は、理由を問わずクーリング・オフができます(特定商取引法9条)。工事が始まっていても可能です。通知は書面のほか、2022年6月からは電子メールなどでも行えます。証拠を残すため、内容証明郵便などを利用すると安心です。業者が契約書面を渡していない場合や、うその説明をした場合は、8日を過ぎてもクーリング・オフできることがあります。
 被害に遭ったときは、すぐに消費生活センター(消費者ホットライン「188」)や弁護士に相談してください。周りに被害に遭いそうな高齢者がいれば、ぜひ声をかけてあげてください。

まとめ:被災したら早めに専門家へ

 災害後の法律問題は、写真や契約書などの証拠を早めに確保し、制度の受付期間を逃さないことが大切です。大きな災害の後には、各地の弁護士会が無料の電話相談窓口を開設することもあります。
 小川・橘法律事務所では、住宅ローンや賃貸、隣家とのトラブル、建物の欠陥、企業の資金繰りや再建など、被災に関するご相談をお受けしています。法律相談のご予約からお気軽にお問合せください。

執筆:弁護士 小川剛(福岡県弁護士会所属・小川・橘法律事務所)。本記事は2026年10月時点の法令に基づく一般的な解説です。各制度の対象や条件は災害ごとに異なるため、個別の事案については弁護士にご相談ください。元のコラムはリスク法務実務研究会に掲載されています。

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