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遺留分の計算と請求Q&A|時効・通知書の文例・付言事項による対策

※本記事は、リスク法務実務研究会の会報誌に当事務所の弁護士が寄稿した「相続・遺言」コラム(2017年4月号〜2018年3月号・全12回)のうち、遺留分に関する回を、2026年10月時点の法令に合わせて再構成したものです。コラム執筆当時の「遺留分減殺請求」は、2019年7月の民法改正で「遺留分侵害額請求」(金銭請求)に変わっています。

「父の遺言書に、兄に全財産を相続させると書かれていた」「自分の取り分はまったくないのか」。このような場合に問題になるのが遺留分です。一方で、遺言を作る側からは「特定の子に財産を集中させたいが、遺留分でもめないようにしたい」というご相談も少なくありません。

この記事では、福岡の弁護士が、遺留分の計算方法、請求の期限(時効)と通知書の文例、遺留分をめぐる紛争を防ぐための対策や付言事項の文例を、Q&A形式で解説します。

この記事の要点

  • 遺留分は、配偶者・子・直系尊属に認められる最低限の取り分です。兄弟姉妹にはありません。
  • 遺留分の割合は、原則として法定相続分の2分の1(直系尊属のみが相続人の場合は3分の1)です。
  • 2019年7月以降の相続では、遺留分は金銭で請求する権利(遺留分侵害額請求)です。
  • 請求は、相続開始と遺留分を侵害する遺言・贈与を知った時から1年以内にしなければなりません(相続開始から10年でも消滅)。内容証明郵便で通知するのが確実です。
  • 遺留分を完全になくすのは難しく、生前の対策と、遺言書の付言事項で理由を伝える工夫を組み合わせます。

Q1. 遺留分とは何ですか?誰にどれだけ認められますか?

A. 遺留分とは、遺言や生前贈与によっても奪うことのできない、一定の相続人の最低限の取り分です。配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属に認められ、割合は原則として法定相続分の2分の1です(民法1042条)。

遺留分は、相続人の生活保障や相続人間の公平を図るための制度です。主なケースの割合は次のとおりです。

相続人 各人の遺留分(遺産全体に対する割合)
配偶者と子2人 配偶者 4分の1、子 各8分の1
子2人のみ 子 各4分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者 2分の1、兄弟姉妹 なし
父母のみ 父母 各6分の1(合計3分の1)

たとえば母がすでに亡くなっており、相続人が兄と弟の2人であれば、弟の法定相続分は2分の1、遺留分はその2分の1の4分の1です。「兄に全財産を相続させる」という遺言があっても、弟は遺産の4分の1に相当する額を兄に請求できます。

Q2. 遺留分の金額はどのように計算しますか?

A. 「相続開始時の財産+一定の生前贈与-債務」で遺留分算定の基礎となる財産を求め、それに個別の遺留分割合を掛けます。そこから、請求する人がすでに受け取った財産などを差し引いた額が「遺留分侵害額」です。

① 基礎となる財産を求める(民法1043条・1044条)

  • 相続開始時の財産:遺言で贈られた財産も含む、亡くなった時点の財産
  • 加算する生前贈与:相続人以外への贈与は相続開始前1年以内のもの、相続人への贈与は相続開始前10年以内の特別受益(婚姻・養子縁組のための贈与や、住宅取得資金・事業資金など生計の資本としての贈与)。当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って行った贈与は、それより前のものも加算されます
  • 差し引く債務:借入金などの相続債務

② 計算例

父が亡くなり、相続人は兄Bと弟Aの2人。遺言は「全財産をBに相続させる」。相続開始時の財産は不動産6,000万円と預金2,000万円、ほかに3年前にBが住宅取得資金として2,000万円の贈与を受けていた。債務はない。

基礎となる財産:6,000万円+2,000万円+2,000万円(Bへの生前贈与)=1億円
Aの遺留分割合:法定相続分2分の1×2分の1=4分の1
Aの遺留分額:1億円×4分の1=2,500万円
Aが取得した財産:0円 → 遺留分侵害額=2,500万円

正確には、遺留分額から、請求者自身が受けた遺贈や特別受益、遺産分割で取得すべき財産の額を差し引き、請求者が承継する相続債務の額を加えて侵害額を算定します(民法1046条2項)。

③ 不動産の評価が最大の争点になりやすい

遺産に不動産が含まれる場合、その評価額で請求額が大きく変わります。取得した側は低く、請求する側は高く評価したいため、評価をめぐって対立しがちです。固定資産税評価額や路線価、不動産会社の査定、不動産鑑定士の鑑定などを参考にしますが、合意できなければ最終的には裁判所が判断します。

Q3. 遺留分は金銭で受け取れますか?

A. はい。2019年7月1日以降に開始した相続では、遺留分は「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利」です(民法1046条)。

改正前の「遺留分減殺請求」では、請求の結果として不動産などが相続人の共有になるのが原則で、「持分1億○○万分の○○万」といった複雑な共有関係が生じ、紛争が終わらないという問題がありました。現在は金銭での解決が原則となったため、自社株式や工場など事業に必要な財産が共有になる事態は避けられます。

その一方で、請求された側は支払資金を用意しなければならないという課題があります。すぐに支払えない場合は、裁判所に支払期限の猶予(期限の許与)を求めることもできます(民法1047条5項)。また、複数の人が遺贈や贈与を受けている場合は、まず遺贈を受けた人が負担し、贈与は新しいものから順に負担するなど、負担の順序が法律で定められています(民法1047条1項)。

Q4. 遺留分の請求に期限(時効)はありますか?

A. あります。相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始から10年を過ぎると請求できなくなります(民法1048条)。

「知った時」がいつかは後から争いになりやすいため、実務上は亡くなってから1年以内に請求の意思表示をしておくのが安全です。意思表示の時点では、金額を確定させる必要はありません。

なお、意思表示をした後の金銭の支払請求権は通常の債権として扱われ、原則として5年で時効にかかります。通知を出したまま放置しないよう注意しましょう。

Q5. 遺留分を請求するには、まず何をすればよいですか?(通知書の文例)

A. 遺留分を侵害している相手(遺贈・贈与を受けた人)に、「遺留分侵害額を請求する」という通知を、配達証明付きの内容証明郵便で送ります。この通知がすべての出発点です。

期限内に請求したことを証明できなければ権利を失うおそれがあるため、口頭や普通郵便ではなく、内容証明郵便を使いましょう。内容証明は所定の書式で作成し、取り扱う郵便局で差し出すほか、インターネットで差し出せる電子内容証明もあります。

遺留分侵害額請求通知書の文例

令和○年○月○日

〒○○○-○○○○
福岡市○○区○○
B 様

〒○○○-○○○○
福岡市○○区○○
A

遺留分侵害額請求通知書

前略
私は、亡父○○○○(令和○年○月○日死亡。以下「被相続人」といいます。)の相続人です。
被相続人は、令和○年○月○日付自筆証書遺言により、貴殿に対して全ての財産を相続させる旨の遺言をしました。この遺言及び被相続人から貴殿への生前贈与により、私の遺留分が侵害されています。
よって、本書面をもって、貴殿に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求いたします。
草々

※金額が未確定でも、この段階では請求できます。遺言の効力そのものを争う場合や、受領者が複数いる場合などは書き方が変わるため、弁護士にご相談ください。

通知後は、話し合い(交渉)→家庭裁判所の調停→訴訟という流れで進むのが一般的です。長年の家族関係が背景にあるため感情的になりやすく、長期化しやすいのが遺留分紛争の特徴です。

Q6. 遺言を作る側で、遺留分の紛争を防ぐ方法はありますか?

A. 遺留分を完全になくすことは難しいため、遺留分が生じることを前提に、生前の対策と支払資金の準備を組み合わせるのが現実的です。

① 生前贈与

生前に財産を贈与しておく方法ですが、相続人への生前贈与は相続開始前10年以内のものが遺留分の計算に加えられるため、遺留分対策としての効果は限定的です。また、贈与税の負担や、自社株式を早期に譲った後に後継者と対立しても取り戻せないといったリスクもあり、経営権を完全に譲る覚悟が必要です。

② 養子縁組

養子を迎えると法定相続人が増え、他の相続人の遺留分の割合が下がります。たとえば子が長男と二男の2人の場合、長男の子2人を養子にすると子は4人となり、二男の遺留分は4分の1から8分の1になります。ただし、養子縁組は家族関係そのものを変えるものであり、相続税上の取扱いも含めて慎重な検討が必要です。

③ 遺留分の放棄

相続人になる予定の人が、家庭裁判所の許可を得て生前に遺留分を放棄することができます(民法1049条)。本人の自由な意思に基づくことや、放棄に見合う代償(生前贈与など)があることなどが考慮されます。会社経営者の場合は、経営承継円滑化法の民法特例(自社株式を遺留分の計算から除外する合意など)も選択肢になります。

④ 生命保険の活用

受取人を指定した生命保険金は受取人固有の財産とされ、原則として遺留分の計算に含まれないと考えられています。財産を多く受け継ぐ相続人を受取人にしておけば、遺留分の支払資金として活用できます。ただし、保険金の額が遺産全体に比べて過大で、相続人間の不公平が著しい場合は例外とされることもあります。

⑤ 信託は万能ではない

「民事信託を使えば遺留分を回避できる」と説明されることがありますが、信託だからといって遺留分の規定が適用されないとは一般に考えられていません。遺留分制度を潜脱する目的の信託を一部無効とした裁判例もあります。信託を検討する場合は、デメリットも含めて仕組みを十分に理解することが重要です。

⑥ 推定相続人の廃除

相続人になる予定の人から虐待や重大な侮辱を受けたり、著しい非行があったりした場合は、家庭裁判所に申し立ててその人を相続人から廃除できることがあります(民法892条)。廃除されると遺留分も失いますが、認められるハードルは高く、簡単には認められません。

これらの対策については、遺留分請求のページもあわせてご覧ください。

Q7. 付言事項とは何ですか?遺留分対策になりますか?

A. 付言事項とは、遺言書に添える家族へのメッセージです。法的な効力はありませんが、財産の分け方の理由を伝えることで、事実上、遺留分の請求を思いとどまってもらう効果が期待できます。

「なぜ自分の取り分が少ないのか」が分からないことが、紛争の大きな原因になります。理由を本人の言葉で伝えることで、相続人の納得を得やすくなります。また、生前の援助(特別受益)を具体的に書いておくと、紛争になった場合にその事実を裏付ける資料にもなります。

付言事項の文例

例1:障害のある子の生活を守りたい場合

長男は障害があり働くことができず、今後も介護サービスを受けながら生活していくことになります。その生活を支えるために、賃貸アパートの賃料収入が必要です。そこで、遺産の大部分を占める賃貸アパートを長男に相続させることにしました。二男も大変だと思いますが、長男のこれからの生活を考えて、遺留分の請求は控えてください。

例2:生前の援助(特別受益)を指摘する場合

私は遺産の大部分を長男に相続させることにしました。二男には、医学部に進学する際の学費を負担し、自宅を建築する際にも1,000万円を渡しています。一方、長男にはこれまで特段の援助をしてきませんでした。そこで、唯一の財産である自宅の土地・建物を長男に相続させるのが公平だと考えました。二男には相応の収入もあるのだから、遺留分の請求は控えて、兄弟仲良く過ごしてください。

例3:配偶者の介護を託す場合

自宅の土地・建物と預貯金は、長男に相続させることにしました。長男夫婦は私と同居し、妻の介護を献身的に行ってくれています。私の死後も、妻の介護を長男夫婦にお願いしたいのです。今後は自宅の改修や介護施設の費用が必要になるかもしれません。預貯金で不足する場合は、自宅を処分して費用に充ててください。二男には申し訳ないけれど、このようにするのが妻のために適当だと考えました。私の気持ちをくんで、遺留分の請求などで兄弟がもめることのないようにしてください。

例4:経済的に自立してほしい子がいる場合

二男はギャンブルによる借金を重ね、私はこれまで何度もその返済を肩代わりしてきました。私が遺産を遺しても、またギャンブルに使ってしまうのではないかと心配でなりません。二男には、自分で働いたお金で生活してほしいのです。私の気持ちを理解して、遺言書に従い、遺留分の請求はしないでください。

※付言事項に法的拘束力はなく、請求されれば遺留分は支払う必要があります。支払資金の準備とあわせて検討しましょう。また、特定の相続人を過度に非難する内容はかえって感情的な対立を招くことがあるため、表現には注意が必要です。

まとめ|遺留分は「1年以内の請求」と「生前の備え」が重要

  • 遺留分は配偶者・子・直系尊属に認められ、割合は原則として法定相続分の2分の1
  • 計算は「相続開始時の財産+一定の生前贈与-債務」×個別の遺留分割合。不動産の評価が争点になりやすい
  • 2019年7月以降の相続では金銭請求(遺留分侵害額請求)
  • 知った時から1年以内(実務上は死亡から1年以内)に内容証明郵便で通知する
  • 遺言を作る側は、生前の対策・支払資金の準備・付言事項を組み合わせる

小川・橘法律事務所では、遺留分侵害額の請求・請求された場合の対応、遺留分に配慮した遺言書の作成など、相続に関するご相談をお受けしています。遺言書の書き方は「遺言書の書き方Q&A」もご覧ください。ご相談はご予約ページからお気軽にどうぞ。

執筆者:弁護士 小川剛(小川・橘法律事務所/福岡県弁護士会)
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。元となったコラムはリスク法務実務研究会の会報誌に掲載されたものです。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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