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名義株とは?M&A・事業承継前の株主整理Q&A|名義書換・スクイーズアウト(株式等売渡請求)・所在不明株主

※本記事は、リスク法務実務研究会の会報誌に当事務所の弁護士が寄稿した「事業承継、M&Aについて」コラム(2019年6月号〜2020年4月号・全11回)のうち、名義株と株主の整理に関する回を、2026年10月時点の法令に合わせて再構成したものです。M&Aの進め方は「中小企業のM&A・事業承継の流れQ&A」、手法の違いは「株式譲渡・事業譲渡・会社分割の違いQ&A」で解説しています。

「株主名簿に、名前を借りただけの親族が載っている」「設立当時の株主と連絡が取れない」「わずかな株式なのに、高額でなければ手放さないと言われた」。こうした株主の問題は、会社を売る(株式譲渡する)ときや後継者に引き継ぐときに、大きな障害になります。

この記事では、福岡の弁護士が、名義株とは何か、M&A・事業承継の前に株主を整理する方法、少数株主から株式を取得するスクイーズアウト(特別支配株主の株式等売渡請求・株式併合)、所在不明株主への対応を、Q&A形式で解説します。

この記事の要点

  • 名義株とは、実際の出資者とは別の人の名前を借りて登録された株式です。発起人が7人以上必要だった1990年の商法改正前に設立された会社によく見られます。
  • 株主が確定していないと、M&Aの買い手は「本当に100%の株式を買えたのか」が分からず、取引が止まったり、価格が下がったりします。
  • 解消の基本は、名義人から「名義だけであり、真の株主は○○である」と確認する書面(実印・印鑑証明書付き)をもらい、名義書換をすることです。
  • 協力が得られない場合でも、議決権の90%以上を持つ株主は特別支配株主の株式等売渡請求で、3分の2以上を確保できれば株式併合で、少数株主から株式を取得できます。価格に不満がある株主は裁判所に価格の決定を求められます。
  • 連絡が取れない株主の株式は、所在不明株主の株式売却制度で処理できます。原則5年の要件は、経営承継円滑化法の認定を受けると1年に短縮されます。

Q1. 名義株とは何ですか?なぜ生まれたのですか?

A. 名義株とは、実際にお金を出した人(真の株主)とは別の人の名前を借りて、株主として登録された株式のことです。

1990年(平成2年)の商法改正前は、株式会社を設立するには7人以上の発起人が必要でした。そのため、実際にはオーナー1人が出資したのに、親族や知人に名前だけ借りて株主にした会社が少なくありません。このほか、相続税対策などの目的で家族名義にした株式が、名義株になっていることもあります。

年月がたつと、名義人と連絡が取れなくなったり、名義人が亡くなって相続人が事情を知らなかったりして、整理が難しくなります。

Q2. 名義株があると、M&Aや事業承継で何が問題になりますか?

A. 買い手は、売り手の「名義だけで、実際は自分の株式だ」という説明が本当かどうかを確かめられません。株主が確定しないままでは、株式の100%を取得できたか分からず、M&Aが止まったり、価格を下げられたりします。

  • 後から名義人やその相続人が「自分が真の株主だ」と主張すると、株主総会決議の効力が争われたり、株主代表訴訟を起こされたりするおそれがあります。
  • 買い手のデューデリジェンスでは、株主の確定は必ず調査される項目です。
  • 後継者に株式を集約する事業承継でも、議決権の確保や相続税の計算に影響します。

株主の問題は、売却を決めてから憅てて対応すると、相手に足元を見られて解決費用が高くなりがちです。M&Aや事業承継を考え始めた段階で、早めに整理しておくことをおすすめします。

Q3. 名義株かどうかは、どのように確認しますか?

A. 株主名簿、法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)、設立時の定款や払込みの記録などで経緯をたどり、出資金を実際に誰が負担したかを確認します。

  • 設立時の定款、株主名簿、過去の株式の異動の記録
  • 法人税申告書の別表二に記載された株主の推移
  • 出資金(払込金)を誰が負担したか(通帳の記録など)
  • 配当を誰が受け取っていたか、株主総会に誰が関与していたか
  • 株券を発行しているかどうか、誰が保管しているか

名義株かどうかは、こうした事情を総合して判断されます。名義人が「自分は名義を貸しただけ」と認めてくれるかどうかが、実務上の分かれ目になります。

Q4. 名義株は、どのように解消すればよいですか?

A. 名義人に、「この株式は名義株であり、真の株主は○○であるため、名義を書き換えることに同意する」という趣旨の書面に実印で署名押印してもらい、印鑑証明書を添えて、会社で名義書換をします。名義書換を済ませてから株式譲渡を行えば、買い手も安心できます。

名義人が亡くなっている場合

名義人が亡くなっている場合は、その相続人全員から同様の書面をもらう必要があります。相続人は事情を知らないことが多く、押印に応じてもらえなかったり、相続人どうしが対立していたり、相続人が多数にのぼったりして、難航することがあります。

実務では金銭で解決することも多い

名義株なのに「自分が真の株主だ」と主張される場合もあります。実務では、協力へのお礼(謝金)を支払って解決する例が多く、金額は株式の価値より低くなるのが一般的です。ただし、M&Aのスケジュールを優先する場合は、上乗せして早期の解決を図ることもあります。合意できたら、株式の帰属と清算条項を定めた合意書を作成しておきましょう。

Q5. わずかな株式なのに、高額でなければ売らないと言われました。どうすればよいですか?

A. 合意による買取りが難しい場合は、少数株主の株式を強制的に取得する「スクイーズアウト」を検討します。議決権の90%以上を持っていれば特別支配株主の株式等売渡請求、3分の2以上を確保できれば株式併合という方法があります。

例えば、名義株と思われる約2%の株式(時価100万円未満)について、名義人の相続人が「1,000万円でなければ売らない」と主張し、話がまとまらないケースです。このような場合の主な選択肢は次のとおりです。

方法 使える場面 主な手続
合意による買取り 相手が売却に応じる場合 オーナーが買い取る、または会社が自己株式として取得(株主総会の特別決議や財源規制あり)
特別支配株主の株式等売渡請求 議決権の90%以上を持つ株主がいる 会社の承認(取締役会設置会社は取締役会決議)、株主への通知・公告。株主総会は不要
株式併合 議決権の3分の2以上の賛成を得られる 株主総会の特別決議、端数となった株式の売却(裁判所の許可)
所在不明株主の株式売却 株主と連絡が取れない 通知が一定期間届かないことなどの要件、公告・催告、裁判所の許可(Q8)

Q6. 特別支配株主の株式等売渡請求とは、どのような制度ですか?

A. 2014年(平成26年)の会社法改正で導入された制度で、議決権の90%以上を持つ株主(特別支配株主)が、他の株主全員に対して、株式の全部を売り渡すよう請求できるものです(会社法179条以下)。株主総会を開く必要はありません。

手続の流れ

  1. 特別支配株主が、売渡価格や取得日などを定めて会社に通知する
  2. 会社がこれを承認する(取締役会設置会社では取締役会の決議)
  3. 会社が、取得日の20日前までに、売り渡す株主に通知(または公告)する
  4. 会社が、価格の算定根拠などを記載した書面を本店に備え置く
  5. 取得日に、特別支配株主が株式を取得する(代金は特別支配株主が支払う)

少数株主は、意思に反して株式を手放すことになりますが、手続が法令に違反する場合や価格が著しく不当な場合には差止めを請求でき(会社法179条の7)、価格に不満があれば裁判所に価格の決定を申し立てることができます(会社法179条の8)。

会社は価格の妥当性を判断し、株価の算定書を準備するなど、専門的な対応が求められます。手続を誤ると取得の効力が争われるおそれがあるため、弁護士や税理士などの専門家に相談しながら進めましょう。

90%に届かない場合は株式併合

特別支配株主がいない場合でも、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成など)で、例えば「1万株を1株にする」といった株式併合を行い、少数株主の株式を1株未満の端数にして金銭で清算する方法があります。この場合も、反対株主には株式の買取請求や価格決定の申立てが認められています。

Q7. 価格に争いがある場合、裁判所ではどのように決まりますか?

A. 価格に不満がある株主は、取得日の20日前から前日までの間に、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます。裁判所は、当事者の主張や株価算定書をもとに、必要に応じて鑑定を行って価格を決めます。

申し立てた株主も、自ら株価の算定を示さなければ審理が進みにくく、価格に大きな争いがあれば鑑定費用などの負担が生じます。当事務所でも、2018年(平成30年)にこの売渡請求の手続で株主の整理を進め、最終的に価格の決定を裁判所に委ねた事案を扱いました。当時、福岡地方裁判所では2例目の申立てと聞いており、利用例は多くありませんが、少数株主との交渉が行き詰まったときの有力な選択肢です。

少数株主を抱えたままにすると、株主総会の招集や株主からの書類の閲覧請求への対応など、長期にわたる負担が続きます。M&Aの予定がなくても、早めの整理を検討しましょう。

Q8. 連絡が取れない株主がいる場合は、どうすればよいですか?

A. 株主への通知が5年以上続けて届かず、その株主が5年間配当を受け取っていないなどの要件を満たせば、会社はその株式を売却(または自ら買い取り)できます(会社法197条)。非上場の中小企業で、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けた場合は、この5年の期間が1年に短縮されます。

  • 会社法の制度では、公告と株主への個別の催告を行い、競売または裁判所の許可を得たうえで売却します。売却代金は、その株主のために保管します。
  • 経営承継円滑化法の特例は、代表者の高齢化などにより事業承継の必要性が高い非上場の中小企業者が対象で、本店所在地の都道府県知事の認定が必要です。認定を受けても、公告・催告や裁判所の手続は必要です。

株主が亡くなっていることが分かった場合は、相続人を調査し、相続人から株式を買い取るなどの対応を検討します。

Q9. 将来、株式が分散しないようにするには、どうすればよいですか?

A. 株式の譲渡制限を定めておくことに加え、相続人等に対する売渡請求の定款規定、遺言、生前の株式の集約などで、相続による分散を防ぎます。

  • 譲渡制限株式:株式の譲渡に会社の承認を必要とし、好ましくない第三者が株主になるのを防ぎます。
  • 相続人等に対する売渡請求:定款に定めておけば、相続で株式を取得した人に対し、会社が売渡しを請求できます(会社法174条)。ただし、株主総会の特別決議や財源の制約があり、オーナー自身の相続の際に使われると支配権を失うおそれもあるため、慎重な設計が必要です。
  • 遺言・生前贈与:後継者に株式を集中させる遺言を作成し、他の相続人の遺留分にも配慮しておきます。

遺言や遺留分については「遺言書の書き方Q&A」「遺留分の計算と請求Q&A」もご覧ください。

まとめ|株主の整理はM&A・事業承継の「最初の一歩」

  • 名義株は1990年の商法改正前に設立された会社に多く、M&Aでは必ず問題になる
  • 解消の基本は、名義人(死亡時は相続人全員)の確認書と名義書換
  • 協力が得られなければ、90%以上なら株式等売渡請求、3分の2以上なら株式併合でスクイーズアウト
  • 価格に争いがあれば裁判所が決定する。株価算定や鑑定の費用も見込んでおく
  • 連絡が取れない株主は所在不明株主の株式売却制度。経営承継円滑化法の認定で期間は1年に短縮
  • 将来の分散を防ぐため、定款・遺言で手当てしておく

小川・橘法律事務所では、名義株の調査と解消、株式等売渡請求・株式併合などのスクイーズアウト、所在不明株主の手続、事業承継に向けた株主の整理をお手伝いしています。法人・個人事業主の方の初回60分の法律相談は無料です。ご予約ページからお問い合わせください。

執筆者:弁護士 小川剛(小川・橘法律事務所/福岡県弁護士会)
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。元となったコラムはリスク法務実務研究会の会報誌に掲載されたものです。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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