基本契約書と個別契約書を作成しているが、基本契約書と抵触するような個別契約書を作成し取引をしているが問題がないか、という問題に対して、簡単ですが説明したいと思います。
基本契約書と個別契約書の優劣
この会社は基本契約書と個別契約書を作成しているぐらいですから、契約、契約書について意識の高い企業といえます。今回の問題の前提として、個別契約書において基本契約書と異なる条項とすることに相手方も同意をし、その上で取引が進んでいるようです。
基本契約書と個別契約書の先後を考える
このような事情が生じることは望ましくはありませんが、基本的には個別契約書が優先すると考えていいとアドバイスをします。理由は、基本契約書と個別契約書の作成の先後です。個別契約書のほうが後になって作成されたものであることは明らかですから、当事者の意思解釈として、基本契約書とは異なる契約内容の取引を合意したとするのが自然だと考えます。
基本契約書内で優先順位を定義する
もっとも、本来は、基本契約書に「基本契約書と個別契約書の内容が抵触する場合には個別契約書を優先する」といった文言を入れることが多い(入れるべき)と思います。このような条項があれば、今回のような相談は不必要だったかもしれません。
余談ですが、契約書が複数存在することは国際取引ではよくあります。日本語の契約書と英文の契約書が作成される場合です。どちらも署名押印がなされているとしても、その内容、解釈に相違が生じていることは珍しくありません。このため、いずれの契約書にも「契約内容に齟齬が生じた場合には、日本文の契約書を優先し、解釈される法は日本国内で適用される法律とする」といった記載が不可欠となります(ここが英文契約書優先だと、私のような日本国内でしか活動する能力の無い弁護士には対応できなくなります)。
基本契約書を作成する場面
取引全体を見た上で基本契約書を作成する必要性がある場合とはどのような場合でしょうか。一つは多々の個別契約のうち共通点について抜き出す場合、もう一つは、長期プロジェクトにおいて、基本方針を最初に確認する場合、枠組みを構築する場合ではないでしょうか。
- 多々の個別契約の共通項を抜き出す場合には、共通項となっている項目(たとえば、決済条件、守秘義務、合意管轄など)を抜き出すことになります。決済条件は個別に定めるのであれば、基本契約書には含めないことになります
- 長期プロジェクト、例えば会社の事業を譲渡する、会社の統合を予定する場合、基本的な統合方針を定める、守秘義務を定める、各社の整備をすすめるといった合意をすることになります。場合によっては、破談になるかもしれませんが、その場合に損害賠償請求をすることができるのか(統合に関する事務作業実費)、ということが検討されることになると思います
この損害賠償については、そもそも基本合意時点では、詳細な情報はないのですから、破談になる可能性もありえますので、破談となる場合、どちらか一方のみの責任なのか(一方会社に不祥事が発生したなど)、どのタイミングから違約金が生じるのかという点は難しく、実際の損害賠償請求まで行えるのかという問題もありますので、あえて損害賠償請求の範囲、行使ができない期間を設けることも考えられます。
本コラムはリスク法務実務研究会にて当事務所の弁護士小川剛が担当している内容を、一部改訂して掲載しております。
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